春は眩しくて、届かない



柏木くんは、思っていたよりずっと普通の人だった。


毎日のように名前を聞くし、
廊下を歩けば誰かが振り返るような人なのに。


実際に話してみると、“有名な柏木湊”っていう感じが不思議なくらいなくて。ただ同じクラスで、少し眠そうで、


たまにゆるく笑う男子だった。


それに。


ノートだって、別にわたしじゃなくてもよかったはずだ。


頭のいい子なんてクラスにいっぱいいるし、
きっと誰にだって借りられたと思う。
それなのに、



「鈴野、ノート貸して」
って、自然にわたしを頼ってくれたことが。



なんだか少しだけ、嬉しかった。


窓の外では、秋の風が木々を揺らしている。


柏木くんが


「あとで返す」とノートを持って席へ戻ってからも、
陽奈はなぜかその背中を目で追ってしまっていた。


窓際の席に座って、
気だるそうにノートを開く姿。


頬杖をつきながらページをめくる横顔。


たまに誰かに話しかけられて、
面倒そうに返事をしている声。