教室は相変わらず騒がしくて、 誰かの笑い声と、購買帰りの袋の音が混ざっている。
そんな中で、柏木くんは不思議なくらい普通の顔をしていた。
“有名な人”って感じじゃなくて、 ただ同じクラスの男子みたいに。
「鈴野ってさ」
「ん?」
「毎日、水瀬と昼食ってるよな」
突然りのんの名前が出て、陽奈はぱちりと瞬きをする。
「うん、今日は食べれないけどほぼ毎日!」
「仲いいよな」
「親友だもん」
即答すると、柏木くんは小さく「だよな」と呟いた。
その声が、なぜか少しやわらかく聞こえる。
「……柏木くんってさ」
「最近りのんと話してるよね?」
その瞬間、湊が少しだけ視線を止めた。
でもすぐに、 「あー……まあ、たまに」
そう曖昧に返す。
「ふーん?」
最初は“近寄りがたい人”だと思っていた。 でも実際は、思ったよりちゃんと話すし、 静かな空気の人だった。
りのんとも、 無理してる感じじゃなく自然に話している。
そのことに、わたしは少しだけ安心していた。
りのんは優しいから、 誰かにちゃんと大切にされてほしいって、ずっと思っていたから。
窓の外で、風に揺れた木の葉が一枚落ちる。

