春は眩しくて、届かない



夜風が静かに通り過ぎる。



「……でもさ」



不意に、柏木くんがぽつりと零す。



「鈴野だけじゃなくて、水瀬もすごいと思うけど」



「え?」



りのんは目を瞬く。



「なんで?」



「チューリップに水やりなんてするやつ、相当なお人好しだろ」



「……っ」



思わず、りのんが小さく吹き出す。



「なにそれ」



「だって誰に頼まれたわけでもないのにやってんじゃん」



「普通そこまでしない」



街灯の光が、静かに足元へ落ちる。



「しかも、水瀬って誰にでも優しいし」



「……普通だよ」



「普通じゃない」



静かに返した。



「嫌なことあっても、ちゃんと誰かに優しくできるのって結構すごい」



その声は、夏の夜みたいに穏やかだった。


胸の奥が、落ち着かない。



「……そんなふうに言われたこと、ないかも」



小さく零すと、少しだけ目を細めた。



「じゃあ周りが気づいてないだけ」



その言葉が、夜風よりも静かに胸へ残った。