春は眩しくて、届かない




「……ひなと?」



わたしは少しだけ考えるみたいに視線を上げる。



「それはね」



街灯の光が、ゆっくりアスファルトへ伸びていた。



「ひなが、わたしを見つけてくれたから」



「見つけた?」



湊が少しだけ首を傾げる。


わたしは小さく笑った。



「一年の時、わたしクラスに馴染めなくてちょっと意地悪されてて」



その言葉に、湊が静かに目を向ける。



「でも、わたし何も言えなかったの」



「……」



「嫌だって言うのも、やめてって言うのも苦手で笑いたくないのに笑ってた」



夏の夜風が、髪を揺らして通り過ぎる。



「その時ひなが、“それおかしくない?”って言ってくれて」



わたしの声は静かだった。


でもその瞬間だけ、少しだけあたたかくなる。



「なんで水瀬さんがそんなことしなきゃいけないのって」



「……鈴野が?」



「うん」



「ひな、すごいまっすぐだから」



「思ったこと、ちゃんと言葉にできる人で」



「わたし、それがすごく眩しかった」



「それから一緒にお昼食べるようになって」



「気づいたら、ずっと隣にいてくれてたの」



柏木くんは少しだけ黙ったまま歩く。


やがて、小さく息を漏らした。



「……鈴野っぽいな」



「ふふ、でしょ?」



少し懐かしそうに笑う。



「わたし、ひなといると楽しくて」



「ヒーローみたいな人だから」



その言葉に、柏木くんは少しだけ黙った。


それから小さく笑う。



「水瀬って、ほんと鈴野のこと好きだよな」



「え?」



「いや、友達として」



「……うん、大好きな親友なの。」



その横顔を見ながら、柏木くんはなぜか少しだけ視線を逸らした。