校門が見えてくる。
その先に、ざわざわと人が集まっているのが見えた。
「あ、もう貼り出されてるかも!」
陽奈が少し足を速める。
私もそれに続く。
人の波の中に入った瞬間、空気が少しだけ変わった。
誰かが、紙を指差して叫んでいる。
「あった!」
「同じクラスだ!」
その声に混ざって、胸の奥が少しだけざわつく。
陽奈が、私の腕を軽くつかんだ。
「りのん、行こ!」
掲示板の前へ。
人の隙間から、白い紙が見える。
1年生の終わりと、2年生の始まりを決める紙。
この1年を決めるもの。
そこに書かれている名前を、まだ私は知らない。
陽奈に引かれる腕を見て密かに思っていた。
――この朝は、もう“いつも通り”じゃないかもしれない。
掲示板の前は、人でぎゅうぎゅうだった。
「どこ!?どこにある!?」
「あった、わたしこっち!」
あちこちから声が飛び交う中で、私は息を少しだけ止める。
陽奈の手が、まだ私の腕をつかんでいる。
「りのん、ほら、上の方かも!」
「うん……」
――あった。
鈴野陽奈。
その名前を見つけた瞬間、陽奈はぱっと顔を輝かせた。
「あった!あった!」
人の波の中で、嬉しそうに指をさしている。
「りのんも早く見よ!」
私もその隣に立って、名前を追う。
陽奈の名前は、すぐに見つかった。
でも、その隣に
――私の名前はなかった。
「……あれ?」
小さく声が漏れる。
もう一度、上からゆっくり目を滑らせる。
ない。
そして気づく。
――水瀬りのん。
「あ、隣のクラスだ」
その一言は、思ったよりも静かに落ちた。
陽奈が振り向く。
「え、ほんと?」
「うん……」
私がうなずくと、陽奈は少しだけ目を丸くして、すぐに笑った。
「でもさ、隣のクラスなら全然会えるじゃん!」
その言葉に、私はうなずくしかなかった。
「りのん、そろそろ教室行こ!」
陽奈はもう前を向いている。
私はその背中を見て、ゆっくりと歩き出した。
その距離がいつもより遠い気がした。
――そのときは、まだ。
それが“遠さ”の始まりだなんて、思っていなかった。

