「あとさ」
「……うん」
「一年の春」
その声が少しだけ静かになる。
「俺、 母さんと喧嘩して家出した時期」
りのんは小さく頷く。
「その時、 ここで寝てたんだよ」
「……え」
目を丸くする。
夜の公園。 まだ少し寒かった春。 人気のないベンチ。
想像しただけで胸が苦しくなる。
柏木くんは苦く笑った。
「行く場所なくてさ」
「コンビニ寄って、 適当に時間潰して」
風で桜が揺れる。
「で、 朝方ここで寝てたら」
そこで、 柏木くんがわたしを見る。
「水瀬が来た」
「…え…わたし?」
「うん」
柏木くんは少しだけ目を細めた。
「“大丈夫ですか?”って」

