春は眩しくて、届かない



公園には、
風の音しかなかった。


夕焼けがゆっくり薄れていく。


柏木くんはしばらく黙ったまま、
手の中のココアを見ていた。


その横顔が、
いつもより少し真剣で。


胸が、
また落ち着かなくなる。


やがて。


柏木くんが小さく息を吐いた。



「……水瀬」



「ん?」



呼ばれて顔を向ける。


柏木くんは少しだけ困ったみたいに笑った。



「俺、
あんまこういうの得意じゃない」



「こういうの?」



「気持ち伝えるの」



夕方の風が、
静かに桜を揺らした。


りのんの指先に、
少しだけ力が入る。


柏木くんは視線を落として、
ゆっくり言葉を探すみたいに続けた。



「でも、ちゃんと言わなきゃなって思うからさ」



その声が、
春の空気に静かに落ちていく。