お昼の時間になって陽奈の教室を覗けば、柏木くんが多くの人に囲まれていた。
陽奈に話しかけようと口を開きかけたその瞬間。
「鈴野ー」
はっきりした声が教室に響く。
「さっきのノート見せてくれないか」
声の先を辿ると柏木くんだった。
さっきまで周りに囲まれていたはずなのに、今は迷いなく陽奈の方を見ている。
「え、寝てたんでしょー?いいよー!」
陽奈はすぐに笑って、机からノートを取り出した。
そのやり取りは、あまりにも自然で。 初めてじゃないみたいな距離感だった。
——胸の奥が、ほんの少しだけ静かになる。
「あ、ごめんりのん!」
陽奈がこちらに気づいて、ぱっと手を振る。
「今ちょっとだけいい?」
「うん、大丈夫」
そう答えながら、私は笑う。 ちゃんと、いつも通りの顔で。
でも視線の端では、柏木くんがノートを見ながら「助かる」と言っていた。
陽奈は「次は寝ないんだよー!」って楽しそうに笑っている。

