陽奈は続けた。
「でもさ、無理に“好きです!”って形にしなくても」
少しだけ柔らかい声。
「“いつもありがとう”でよくない?」
その瞬間。
わたしは小さく息を止めた。
ありがとう。
図書館で隣にいてくれたこと。
進路で悩んでる時、 ちゃんと話を聞いてくれたこと。
雪の日に送ってくれたこと。
“またな”って笑ってくれること。
胸の奥に、 いろんな景色が浮かぶ。
陽奈はわたしの反応を見ながら笑った。
「りのんの“ありがとう”って、たぶん結構特別だと思うよ」
風がふたりの髪を揺らす。
少しだけ視線を落として、 小さく笑った。
「……それなら、言えるかも」
陽奈がぱっと顔を明るくする。
「でしょ!?」
「でも緊張する」
「そこは頑張ってください!」
「他人事〜!」
ふたりで笑う。
でもわたしの胸の中には、 さっきの言葉が静かに残っていた。
“好き”を全部言えなくてもいい。
まずは。
“ありがとう”を渡すだけでも、 きっと十分なんだって。

