春は眩しくて、届かない




——水瀬。



階段で話した日のことを、
何度も思い出す。


あの日、
もし水瀬が「大丈夫だよ」だけで終わらせていたら、
たぶん俺はまた逃げてた。


でも水瀬は、
ちゃんと聞いてくれた。


否定もしないで、
急かしもしないで。


だから今日は、
ちゃんと感謝を伝えたいと思った。


教室の前まで来たところで、
窓際に立つ水瀬を見つける。


朝日が横から差し込んで、
髪が少しだけ透けて見えた。


その瞬間、
胸が変にうるさくなる。


……何緊張してんだ。


湊は小さく息を吐いて、
教室へ入った。



「……水瀬」



名前を呼ぶと、
水瀬が振り向く。



「あ、柏木くん」



いつもの声。


その瞬間、
少しだけ安心する。


湊は数秒迷ってから、
後頭部を軽く掻いた。