翌日。
教室へ向かう廊下は、いつもより少し騒がしかった。 「え、朝から?」 「やばくない?」
「また女の子振ったらしいよ!」
「えー、何人目?」
朝の廊下で、そんな声が聞こえてくる。
「柏木くんって、結局誰とも付き合わないよね」
「彼女になる人とか、相当可愛くて優しくて、完璧な人なんだろうなー」
楽しそうな噂話は、そのまま春のざわめきに溶けていく。
私は教室へ向かいながら、小さく視線を落とした。
——柏木湊。
学校の中では、やっぱり遠い存在だった。
みんなが知っていて、みんなが憧れていて。
きっと隣に並べる人も、特別な誰かなんだろう。
でも。
昨日、公園で話した柏木くんは、学校で見るよりずっと普通だった。
花壇を見ながら笑って。
「またな」
なんて自然に言って。
あんなふうに話しかけてもらえたことが、なぜだか少し嬉しかった。
ただ、それだけ。
その気持ちは、春の風になびくみたいに、静かに揺れていた。

