階段の踊り場。
窓の外はもう夕焼けが薄れていて、 空の色がゆっくり夜に変わり始めていた。
水瀬は一段下に座ったまま、 何も急かさずに待っている。
その静けさが逆に、 話してしまいそうで困る。
湊はスマホを指先で回しながら、 小さく息を吐いた。
「……実はさ」
声が少し掠れる。
水瀬が静かに顔を上げる。
「俺ん家、前から結構ぐちゃぐちゃで」
風が、 窓の隙間を鳴らした。
「親父、酒飲むとすぐキレる人だったんだよ」
水瀬の表情が少しだけ変わる。
でも何も言わない。
「物投げたりとか、 そこまでじゃねぇけど」
俺は苦く笑う。
「家の空気、最悪だった」
夜遅くに響く怒鳴り声。
食器のぶつかる音。
母親の泣きそうな声。
自分の部屋でイヤホンをして、 聞こえないふりしてた時間。
全部、 まだ耳に残ってる。
「母親はずっと我慢してた」
「……たぶん、俺のために」
でも。
「その代わり、 俺には“ちゃんとしなさい”しか言わなくなった」
成績。
生活態度。
進路。
“お父さんみたいにならないで”
その言葉だけが、 何回も刺さった。
湊は視線を落とす。

