「あの……柏木くん」
湊が顔を上げる。
一瞬だけ、 かなり驚いた顔をした。
「……水瀬」
気まずそうに視線を逸らす。
少しだけ困ったみたいに笑った。
「ごめん、聞こえちゃって」
「……最悪」
柏木くんが小さく呟く。
その声が、 思っていたより弱かった。
数秒迷ってから、 ゆっくり口を開く。
「大丈夫?」
その瞬間、 湊の眉がわずかに動く。
“大丈夫”って言葉に慣れてない人みたいに。
「……別に」
いつもの返事。
でも今日は、 全然“別に”じゃないって分かってしまう。
手すりを軽く握る。
「ごめんね」
「何も知らないのに」
湊は黙ったまま、 スマホを握り直した。
夕方の光が、 階段の窓から差し込む。
静かに続ける。

