春は眩しくて、届かない



少し迷ってから、
そっと階段のほうを覗く。


踊り場。


柏木くんが壁にもたれて、
スマホを耳に当てていた。


普段の眠そうな顔じゃない。


苦しそうで、
どこか張りつめている。



『ちゃんと帰ってきて話』



スマホ越しに、
かすかに女の人の声が漏れる。


その直後。



「……切る」



短く言って、
通話が切れた。


静寂。


それから小さく、
深いため息。


胸がざわつくのを感じながら、
階段を一段だけ下りる。