春は眩しくて、届かない



柏木くんの背中が見えなくなってからも、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。


春の風が吹くたび、花壇のチューリップが小さく揺れる。


さっきまで普通に話していたはずなのに、胸の奥だけが落ち着かなかった。


どうして、名前を覚えていたんだろう。


どうして、“またな”なんて自然に言えたんだろう。


わたしたちに“また”があるんだろうか。


ジョウロを持ったまま、私はしゃがみ込む。


赤いチューリップが、夕陽の中でゆらゆら揺れていた。



「……ねえ」



小さく声を落とす。



「柏木くんって、あんな人なんだね」



もちろん、返事なんてない。


それでもチューリップは、春の風に揺れながら、この公園と私たちの関係の


何かを知っているみたいな顔をしていた。