「……あんたさ」
気づけば、 低い声が漏れていた。
『え』
「またそれ?」
沈黙。
湊は立ち上がる。
「結局、自分のことばっかじゃん」
「学校がどうとか、世間体がどうとか」
『違う!心配して』
「じゃあなんで親父の時は止めなかったんだよ」
空気が止まる。
電話の向こうが、 静かになる。
湊の呼吸だけが荒い。
ずっと、 言わなかった言葉だった。
「俺がどんだけ嫌だったか知ってたろ」
「毎日怒鳴り合って」
「家帰っても息苦しくて」
『……』
「なのに“ちゃんとしなさい”しか言わねぇじゃん」
手すりを握る指に力が入る。
「俺、 親父みたいになるなって何回も言われた」
その言葉が、 今でも胸に刺さってる。
『それは……』
「俺、あんたの中じゃずっと“失敗する側”なんだろ」
声が震える。
怒ってるのか、 苦しいのか、 自分でも分からない。
電話の向こうで、 母親が小さく息を飲む。
『……お父さんと、あんたは違う』
「違わねぇよ」
即答だった。
「親父も最初は“ちゃんとやる”って言ってた」
「でも結局逃げた」
湊は笑う。
乾いた笑い。
「俺も同じだろ」
「家出て、逃げてる」
『湊』
「だから期待すんなって」
言った瞬間、 喉の奥が焼けるみたいに痛かった。
母親はしばらく黙っていた。

