春は眩しくて、届かない



何事もないまま、午後の授業は過ぎていった。


新しい教科書の匂い。


まだ少しぎこちないクラスの空気。


先生の声を聞き流しながら、私は何度か隣のクラスのことを考えていた。


気づけば、窓の外は少しだけオレンジ色に染まり始めている。


放課後だった。



「りのーん!」



教室のドアから顔を出した陽奈が、大きく手を振る。



「ごめん、ちょっと先生に呼ばれちゃった!」



「そっか」



「先帰ってていいよ!そんな長くならないと思うし!」



陽奈は申し訳なさそうに笑う。



「うん、わかった」



「また明日ね!」



手を振って去っていく背中を見送ってから、私は静かに校舎を出た。


帰り道の途中、小さな公園の前で足を止める。


花壇のチューリップが、少しだけ元気がなさそうだった。


去年から時々、近くに置いてあるジョウロで水をあげている。


ただ、なんとなく放っておけなくて。



「……今日ちょっと暑かったもんね」


小さく呟きながら、水を注ぐ。


夕方の風が静かに吹き抜ける。