「バカかよ」
「返すとか言っといて」
中身のないケースを見る。
アンクレットは、きっと今も彼女の左手首にいるんだろう。
「一番返せてねぇじゃねぇか」
スマホと車のキーを素早く掴む。
「迎えに行くに決まってんだろ」
マンションを飛び出し、車に乗り込む。
エンジンをかけた瞬間、不意に思い出した。
初めて、あいつと会った夜のことを。
「……王子?」
聞き慣れない呼び方に、思わず視線を上げた。
カウンターの隣から、こっちを見てる女。
——それが、志穂の第一声だった。
「何だそれ」
「だって顔だけでしょ?」
あっさり言い切って、グラスを傾ける。
「王子っていうか……鑑賞用?」
「恋とか面倒だし、見る分には最高だけど」
——鑑賞用?
(……は?)
思考が、一瞬止まる。
今まで散々言われてきた。
かっこいいだの、素敵だの、付き合ってほしいだの。
でも、「興味ない」って顔で言われたのは、初めてだった。
しかも、“顔しか見てない”って意味で。
(……なんだこいつ)
普通なら腹立つはずなのに、妙に引っかかった。
「名前は?」
「なんで?」
「呼ぶとき困るだろ」
「別に呼ばなくていいじゃん、王子で」
けらけらと笑う。
気を遣う様子もない。
距離を詰めてくるでもない。
媚びるでもない。
(……こいつ)
“藤垣”を見てない。
“綾人”ですらない。
ただ、 目の前の“男”として見てる。
それが、やけに新鮮だった。
その日から、気づけば目で追ってた。
他の女と何が違うのか。
確かめたくて。
——いや、
最初から、わかってたのかもしれない。
『知らねぇ女が婚約者とか、無理』
あの日、そう言ったのは本音だ。
でも、
「志穂がいい」
あれも、嘘じゃねぇ。
理由なんて、後付けでいい。
ただ一つ確かなのは——
誰も代わりにはなれないってことだけだ。
「返すとか言っといて」
中身のないケースを見る。
アンクレットは、きっと今も彼女の左手首にいるんだろう。
「一番返せてねぇじゃねぇか」
スマホと車のキーを素早く掴む。
「迎えに行くに決まってんだろ」
マンションを飛び出し、車に乗り込む。
エンジンをかけた瞬間、不意に思い出した。
初めて、あいつと会った夜のことを。
「……王子?」
聞き慣れない呼び方に、思わず視線を上げた。
カウンターの隣から、こっちを見てる女。
——それが、志穂の第一声だった。
「何だそれ」
「だって顔だけでしょ?」
あっさり言い切って、グラスを傾ける。
「王子っていうか……鑑賞用?」
「恋とか面倒だし、見る分には最高だけど」
——鑑賞用?
(……は?)
思考が、一瞬止まる。
今まで散々言われてきた。
かっこいいだの、素敵だの、付き合ってほしいだの。
でも、「興味ない」って顔で言われたのは、初めてだった。
しかも、“顔しか見てない”って意味で。
(……なんだこいつ)
普通なら腹立つはずなのに、妙に引っかかった。
「名前は?」
「なんで?」
「呼ぶとき困るだろ」
「別に呼ばなくていいじゃん、王子で」
けらけらと笑う。
気を遣う様子もない。
距離を詰めてくるでもない。
媚びるでもない。
(……こいつ)
“藤垣”を見てない。
“綾人”ですらない。
ただ、 目の前の“男”として見てる。
それが、やけに新鮮だった。
その日から、気づけば目で追ってた。
他の女と何が違うのか。
確かめたくて。
——いや、
最初から、わかってたのかもしれない。
『知らねぇ女が婚約者とか、無理』
あの日、そう言ったのは本音だ。
でも、
「志穂がいい」
あれも、嘘じゃねぇ。
理由なんて、後付けでいい。
ただ一つ確かなのは——
誰も代わりにはなれないってことだけだ。



