「藤原さん、一度お会いしたかったんです」
「えっ……なんで」
「綾人さんが、自ら女性を連れて来られるなんて初めてですから」
(……褒められてるのよね?)
そう思いたいのに、視線は変わらず冷たいまま。
九条麗華という名のとおり、微笑みにも花がある。
彼女の着ている深いワインレッドのドレス。
華美じゃないのに、誰より目を引く。
まるで彼女自身みたいに無駄がなかった。
けれど、その笑みはどこか温度がない。
すると九条さんの視線が、ふと止まる。
ほんの一瞬。
でも確実に、足元を見た。
「……そういうことでしたか」
九条さんは、それ以上何も言わなかった。
なのに、まるで答え合わせが終わったみたいな顔をしている。
(……なに、この感じ)
誰も何も言っていないのに、 “何かが確定した”ような沈黙。
そのとき——
「綾人」
低く、よく通る声が会場の奥から響いた。
ざわり、と空気が揺れる。
振り向いた先にいたのは、 年齢を感じさせないほど整ったスーツ姿の男性。
無駄のない歩き方。 視線ひとつで周囲を制するような存在感。
考えるより先に、理解する。
——この人が、綾人のお父さん。
「……親父」
綾人の声が、ほんのわずかに低くなる。
さっきまでとは違う。 どこか、緊張を含んだ声音。
その男性は、ゆっくりとこちらへ歩み寄ると、 まずあたしを見た。
一瞬だけなのに。
(全部、見られた)
値踏みでも、否定でもない。
ただ、“判断された”感覚。
「……なるほど」
「連れて来いって言っただろ」
間髪入れずに返す綾人。
迷いも、躊躇いもない。
その言葉に、 周囲の空気がぴん、と張り詰める。
綾人のお父さんは、ほんのわずかに目を細めた。
「初めまして。藤原志穂と申します」
逃げずに頭を下げる。
数秒のはずなのに、 やけに長く感じる時間。
やがて、父親が口を開いた。
「……綾人、あとで上がってもらうからな」
「わかってるよ」
「では、藤原さんもまた後で」
(……え?)
その言葉に、思わず顔を上げる。
「今の挨拶で、終わったの?」
綾人は、ふっと笑った。
「そんなわけねぇだろ。ここからが本番だ」
「えっ……なんで」
「綾人さんが、自ら女性を連れて来られるなんて初めてですから」
(……褒められてるのよね?)
そう思いたいのに、視線は変わらず冷たいまま。
九条麗華という名のとおり、微笑みにも花がある。
彼女の着ている深いワインレッドのドレス。
華美じゃないのに、誰より目を引く。
まるで彼女自身みたいに無駄がなかった。
けれど、その笑みはどこか温度がない。
すると九条さんの視線が、ふと止まる。
ほんの一瞬。
でも確実に、足元を見た。
「……そういうことでしたか」
九条さんは、それ以上何も言わなかった。
なのに、まるで答え合わせが終わったみたいな顔をしている。
(……なに、この感じ)
誰も何も言っていないのに、 “何かが確定した”ような沈黙。
そのとき——
「綾人」
低く、よく通る声が会場の奥から響いた。
ざわり、と空気が揺れる。
振り向いた先にいたのは、 年齢を感じさせないほど整ったスーツ姿の男性。
無駄のない歩き方。 視線ひとつで周囲を制するような存在感。
考えるより先に、理解する。
——この人が、綾人のお父さん。
「……親父」
綾人の声が、ほんのわずかに低くなる。
さっきまでとは違う。 どこか、緊張を含んだ声音。
その男性は、ゆっくりとこちらへ歩み寄ると、 まずあたしを見た。
一瞬だけなのに。
(全部、見られた)
値踏みでも、否定でもない。
ただ、“判断された”感覚。
「……なるほど」
「連れて来いって言っただろ」
間髪入れずに返す綾人。
迷いも、躊躇いもない。
その言葉に、 周囲の空気がぴん、と張り詰める。
綾人のお父さんは、ほんのわずかに目を細めた。
「初めまして。藤原志穂と申します」
逃げずに頭を下げる。
数秒のはずなのに、 やけに長く感じる時間。
やがて、父親が口を開いた。
「……綾人、あとで上がってもらうからな」
「わかってるよ」
「では、藤原さんもまた後で」
(……え?)
その言葉に、思わず顔を上げる。
「今の挨拶で、終わったの?」
綾人は、ふっと笑った。
「そんなわけねぇだろ。ここからが本番だ」



