終電を逃した夜、鑑賞用の王子様は婚約者にした私を離さない

「起きろ、志穂。出かけるぞ」
 
カーテンの隙間から差し込む光と、アラームにしては耳馴染みの良い音。
ゆっくり瞼とともに意識が浮上して、最初に目に入ったのは——見慣れない天井だった。
 
「……っ、んー……」

音のするほうへ手探りしていると、掴まれた感触。
視線を向けると、綾人がこちらを見ている。   
その瞬間、昨夜の記憶が鮮やかに蘇る。
 
(そうだ!あたし綾人の家に泊まったんだった……)
  
「ほら、ぼーっとすんな」
 
掴んだまま綾人が、軽く額を小突いた。
見ると彼はもう寝間着姿ではなかった。 
 
「……なに、朝から」 
「婚約者の準備」
 
あまりにも当然みたいに言われて、言葉が詰まる。
 
「今日からだろ。外でもちゃんと“それ”でいくから」
 
“それ”——って。
 
「ちょっと待って、準備ってなによ」 
「待たねぇよ」
 
間髪入れずに返されて、ぐうの音も出ない。
確かに、もう婚約者扱いとか話してたけど。

(あくまで、フリだよね……?)  
 
綾人は見透かしたみたいに、笑って言う。
  
「紹介まで時間ねぇんだ。形だけでも整えとく」
 
そう言って、クローゼットから取り出されたのは、見覚えのないワンピース。
タグもついたままのそれを、無造作にあたしに押し付けてくる。
 
「着替え」 
「……だから、なんで用意できるのよ」
「婚約者だからな」