5月。
高校生活最後の「体育祭」が開催された。
クラスは離れてしまったけれど、私と空くんは偶然にも同じ「赤団」になった。
「真奈、頑張って! 次、100メートル走でしょ!」
「うん、行ってくる!」
瑠香ちゃんに応援されて、私はトラックのスタートラインに立つ。
緊張でガチガチになりながらも、ピストルの音と同時に走り出した。
とにかく無我夢中で足を動かす。
だけど、ゴール直前、他のクラスの選手とコースが交錯し、私はバランスを崩して派手に転倒してしまった。
「キャッ……!」
固いグラウンドの土に、膝と手を強く打ちつける。激しい痛みが走り、立ち上がれない。
「真奈!!」
遠くから瑠香ちゃんの悲鳴が聞こえた。
保健室に行かなきゃ、そう思って無理に立ち上がろうとした時。
「おい、動くな!!」
人混みをかき分けて、誰かが猛スピードで走ってきた。
赤団のハチマキを頭に巻いた、空くんだ。
空くんは息を切らしながら私の前にしゃがみ込み、私の傷だらけの手足を冷たい目で睨みつけた。
「……何やってんだよ、お前は。いっつもドジばっかりして」
「そ、空くん……。ごめん、なさい……」
怒られた、と思って涙が溢れそうになる。
すると、空くんは「チッ」と小さく舌打ちをして、私の前に背中を向けた。
「乗れ」
「え……?」
「早くしろ、保健室行くぞ」
空くんの大きくて広い背中。
断ったら周りの目もあるし、私は小さく「失礼します……」と言って、空くんの背中にしがみついた。
グイッと身体が持ち上がる。
幼馴染の空くんにちゃんとおんぶしてもらうなんて、小学生の時以来かもしれない。
「……重。お前、ちょっと太ったろ」
「太ってないもん……っ!」
いつも通りの意地悪なセリフ。でも、空くんの首筋がほんのり赤くなっているのを、私は見逃さなかった。
あぁ、やっぱり空くんは優しいな。ただの幼馴染として、心配してくれてるだけなんだろうけど……。
空くんの髪から、いつも通りのシャンプーのいい匂いがする。
近すぎる距離が、かえって切なさを倍増させる。
「空くん、もうすぐ他校の文化祭とかあるよね。空くん、行く人いるの?」
背中の上で、私は思い切って、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
例の女の子と行くのかどうか、知りたかったのだ。
すると、空くんの身体が一瞬、ビクッと強張った。
「……別に。行く奴なんていねぇよ。お前こそ、冬休みに一緒にいたあの男と行くんだろ」
「え? サッカー部の? 行かないよ。ただの友達だもん」
「……は?」
空くんがピタッと足を止めた。
「ただの、友達……?」
「うん。宿題教えてもらってただけだよ?」
空くんの背中から、ドクンドクンと速い鼓動が伝わってくる。
「じゃあ……お前、彼氏できたわけじゃねぇのか?」
「できるわけないじゃん、私、好きな人……」
そこまで言って、私は慌てて口を塞いだ。
危ない、「好きな人は空くんだよ」って言ってしまうところだった。
「……好きな人?」
空くんの声が、低く震える。
「あ、ううん! なんでもない! ほら、保健室見えてきたよ、おろして!」
私は恥ずかしさのあまり、空くんの背中で大暴れしてしまった。
「危ねぇな、動くな!」
誤解は少し解けたかもしれない。
だけど、肝心な「一番大切な一言」がお互いに言えないまま、私たちはまたしても決定的なチャンスを逃してしまうのだった。
高校生活最後の「体育祭」が開催された。
クラスは離れてしまったけれど、私と空くんは偶然にも同じ「赤団」になった。
「真奈、頑張って! 次、100メートル走でしょ!」
「うん、行ってくる!」
瑠香ちゃんに応援されて、私はトラックのスタートラインに立つ。
緊張でガチガチになりながらも、ピストルの音と同時に走り出した。
とにかく無我夢中で足を動かす。
だけど、ゴール直前、他のクラスの選手とコースが交錯し、私はバランスを崩して派手に転倒してしまった。
「キャッ……!」
固いグラウンドの土に、膝と手を強く打ちつける。激しい痛みが走り、立ち上がれない。
「真奈!!」
遠くから瑠香ちゃんの悲鳴が聞こえた。
保健室に行かなきゃ、そう思って無理に立ち上がろうとした時。
「おい、動くな!!」
人混みをかき分けて、誰かが猛スピードで走ってきた。
赤団のハチマキを頭に巻いた、空くんだ。
空くんは息を切らしながら私の前にしゃがみ込み、私の傷だらけの手足を冷たい目で睨みつけた。
「……何やってんだよ、お前は。いっつもドジばっかりして」
「そ、空くん……。ごめん、なさい……」
怒られた、と思って涙が溢れそうになる。
すると、空くんは「チッ」と小さく舌打ちをして、私の前に背中を向けた。
「乗れ」
「え……?」
「早くしろ、保健室行くぞ」
空くんの大きくて広い背中。
断ったら周りの目もあるし、私は小さく「失礼します……」と言って、空くんの背中にしがみついた。
グイッと身体が持ち上がる。
幼馴染の空くんにちゃんとおんぶしてもらうなんて、小学生の時以来かもしれない。
「……重。お前、ちょっと太ったろ」
「太ってないもん……っ!」
いつも通りの意地悪なセリフ。でも、空くんの首筋がほんのり赤くなっているのを、私は見逃さなかった。
あぁ、やっぱり空くんは優しいな。ただの幼馴染として、心配してくれてるだけなんだろうけど……。
空くんの髪から、いつも通りのシャンプーのいい匂いがする。
近すぎる距離が、かえって切なさを倍増させる。
「空くん、もうすぐ他校の文化祭とかあるよね。空くん、行く人いるの?」
背中の上で、私は思い切って、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
例の女の子と行くのかどうか、知りたかったのだ。
すると、空くんの身体が一瞬、ビクッと強張った。
「……別に。行く奴なんていねぇよ。お前こそ、冬休みに一緒にいたあの男と行くんだろ」
「え? サッカー部の? 行かないよ。ただの友達だもん」
「……は?」
空くんがピタッと足を止めた。
「ただの、友達……?」
「うん。宿題教えてもらってただけだよ?」
空くんの背中から、ドクンドクンと速い鼓動が伝わってくる。
「じゃあ……お前、彼氏できたわけじゃねぇのか?」
「できるわけないじゃん、私、好きな人……」
そこまで言って、私は慌てて口を塞いだ。
危ない、「好きな人は空くんだよ」って言ってしまうところだった。
「……好きな人?」
空くんの声が、低く震える。
「あ、ううん! なんでもない! ほら、保健室見えてきたよ、おろして!」
私は恥ずかしさのあまり、空くんの背中で大暴れしてしまった。
「危ねぇな、動くな!」
誤解は少し解けたかもしれない。
だけど、肝心な「一番大切な一言」がお互いに言えないまま、私たちはまたしても決定的なチャンスを逃してしまうのだった。



