壱くん、お願いだから近づかないで。






「それなら……なんとか我慢できるかもしれない」

「でしょう? ふふっ。それにまだまだ時間はあるわ。あ、夕食作るの手伝って。玉ねぎ切って、みじん切りね」

「はーい……」


 お母さんに言われるまま、まな板の前に立つ。玉ねぎを半分に切って、三ミリほどの切り込みをいくつか入れてから、端から細かく刻んでいく。


「出来たよ、玉ねぎ〜」


 ううぅ〜と唸りながら涙目でお母さんに告げると、次は人参を渡された。


「次は人参よ、すりおろしね」

「えーすりおろし苦手なのにぃ」

「苦手だろうが、やる。お父さん帰ってきちゃうでしょ?」


 仕方なく人参の皮をピーラーで剥いて、すりおろし器でごりごりとすりおろす。
 玉ねぎとすりおろした人参をひき肉と合わせて、パン粉、全卵、ナツメグ、胡椒を入れて混ぜ合わせる。真ん中にチーズを忍ばせて三つに形成して、フライパンで両面をじっくり焼いた。

 お母さんが作ったデミグラスソースの中にハンバーグを入れて、ぐつぐつと煮込む。いい匂いが漂ってきて、少しだけお腹が鳴った。

 その後お父さんが帰ってきて、夕食を三人で食べた。美味しかった。お母さんのソースは、いつ食べても最高だと思う。

 だけど、胸の中の憂鬱は最後まで消えなかった。

 来年、この平穏な学校生活はどうなってしまうんだろう。

 お皿を片付けながら、私はため息をひとつこぼした。