壱くん、お願いだから近づかないで。



「じゃあ、また明日ね!」

「うん、また明日」


 今日も背中を見送った。昨日と同じ場所で、同じように立って、同じように見送った。

 でも、昨日とは少し違う気持ちがあった。

 改札を通って、ホームへの階段を下りながら私は考えた。このどきどきの意味が、まだわからない。慣れなのか、それとも別の何かなのか、自分ではうまく判断できない。

 でも一つだけ、わかったことがある。

 雉真くんと話すのは、怖くない。

 それだけでも、今の私にとっては十分すごいことだと思った。ホームに下りると、電車が入ってくる音がして、私は列の端に並んだ。

 ゆっくりでいい、と彼は言った。

 そのゆっくりの先に何があるのか、今はまだわからなくていい。でも、少しだけ——その先を、考えてみてもいいかもしれないと思えた。

 電車に乗り込んで、窓際に座る。動き出した車窓の外で、雨はまだ続いていた。

 梅雨が明ける日は、まだ少し先みたいだった。