壱くん、お願いだから近づかないで。




「今は?」


 今は、と聞かれると——答えが出てこなかった。嫌じゃないとは思う。一緒にいることが苦痛じゃなくなったのは本当だ。でもそれ以上の言葉を、うまく選べなかった。


「……わからない」

「そっか」


 また、そっかと言った。それ以上追いかけてこない。急かさない。その距離の取り方が、妙に心地よかった。

 駅の入り口が見えてきて、二人で屋根の下に入った。雨の音がまた遠くなる。改札の向こうにホームが見えていて、電車がちょうど出ていくところだった。


「佑茉ちゃん」

「なに?」

「男の子、全員が嫌いなわけじゃないって、少しでも思えたらいいなって思ってる」


 まっすぐな目で言われた。自分のことじゃなくて、私のことを言っている声だった。


「……そうなれるかどうか、わからないけど」

「わからなくていいよ。ゆっくりでいい。だけど、贅沢を言えば俺のことだけは嫌いになってほしくないなぁって思ってる」


 雉真くんはそう言って、改札にICカードをかざした。