壱くん、お願いだから近づかないで。




「佑茉は、雉真くんのことは……怖い? 前は、男の子とすれ違うだけでも嫌がってたじゃない?」

「……最近は、そんなに」

「じゃあ、嫌い?」

「……嫌いでは、ない」

「一緒にいると、どんな感じ?」

「……普通に、話せるようになってきた、かな。図書委員の時は、楽しいって思うこともある、し」


 言いながら、自分でも気づいていなかった言葉が出てきて少し驚いた。

 楽しいって思うこともある、なんて。そんなふうに思っていたのか、私は……


「そっかあ」


 花純はにこりと笑って、卵焼きを口に入れた。
 それ以上は何も言わなかった。でも、その笑い方が全部わかってるよという顔に見えて、私は「何も言わないで」と呟いた。


「何も言ってないよ」

「言ってないけど、顔が言ってる」

「そう?」


 花純はまたニコっとして、今度はご飯を食べ始めた。本当にずるい笑い方をする子だ。

 私はお弁当を開けながら、自分の気持ちを整理しようとした。怖くない。嫌いじゃない。一緒にいると楽しいと思うこともある。髪をかわいいと言われて、どきどきした。

 いや、違う。
 絶対に違う。慣れてきただけだ。

 ほぼ毎日隣の席で委員会も一緒で男の子と話すことに慣れてきた。それで警戒心が薄れてきただけだ。
 それだけのことを、勘違いしているだけだ。

 そう結論づけて、私はおにぎりを口に入れた。