壱くん、お願いだから近づかないで。





 一時間目は数学で、二時間目は英語で、三時間目は理科だった。
 どの授業も内容は頭に入っているはずなのに、なんとなくぼんやりしていた。雉真くんが隣にいることが、妙に気になった。

 消しゴムを使う音とか、ページをめくる音とか、ふとした時に聞こえる小さな息とか。今まで気にならなかったのに、今日は全部が耳に届いてくる。

 これは……絶対、おかしい。

 昼休みになって、花純と中庭に向かいながら私は悩んでいた。


「花純、ちょっと聞いていい?」

「どうしたの? なんか顔色悪いよ」

「顔色、悪い?」

「なんか、ぼーっとしてる感じ」


 花純がおっとりした目でこちらを見てくる。この子は余計なことは言わないから、話しやすい。ゆっことは違って、静かに聞いてくれる。


「……昨日、雉真くんに、かわいいって言われた」


 言ってから、自分で恥ずかしくなった。
 声に出すと、余計に現実になった気がする。


「え、どこが?」

「髪」

「髪かぁ……それで?」

「それで、ずっとどきどきしてて……朝起きてもまだどきどきしてて、それがなんか嫌で」

「なんで嫌なの?」

「だって、男の子にどきどきするなんて、私らしくないし苦手なのに」


 花純はしばらく黙っていた。中庭のベンチに腰かけて、お弁当の蓋を開けながら、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。