壱くん、お願いだから近づかないで。




「いいね、これ」

「でしょ! リピートしてるんだけど飽きなくて……」


 そんな話をしていると、チャイムが鳴って担任の先生が入ってきた。今日の連絡事項を話す先生の声を聞きながら、私はノートを開く。

 普通の朝だ。

 でも、隣の席に雉真くんが座った瞬間、また心臓が少し跳ねた。

 跳ねた、と気づいた瞬間、私は自分に呆れた。昨日あんなに普通にしようと決めたのに、もう崩れている。意識しているから跳ねるんだ。意識しなければいい。ただの隣の席の人だ。図書委員のペアだ。それだけだ。


「おはよう、佑茉ちゃん」

「……おはよう、ございます」


 なんで敬語になるんだろう。自分でも謎だった。

 雉真くんは特に気にした様子もなく鞄から教科書を取り出していて、昨日のことなんてもう忘れているんじゃないかと思った。あの人にとっては何気ない一言だったんだろう。
 髪が長いね、かわいいと思って——それだけのことだ。きっとそういうことをさらっと言える人なんだ。私が一人で引きずっているだけで、向こうはもうとっくに忘れている。

 そう思ったら、なんだか少し、むっとした。

 忘れているのか。あんなに私をどきどきさせておいて、もう忘れているのか。

 ……なんで私は今、むっとしているんだろう。

 自分の気持ちがよくわからなくて、私はノートに視線を落として、先生の話を必死に書き写した。