壱くん、お願いだから近づかないで。




 電車が動き出して、駅が遠ざかっていく。雨の中の街並みが流れていく。商店街のアーケードが見えて、さっきまであそこを雉真くんと歩いていたんだと思ったら、また耳が熱くなった。

 それだけのことなのに。

 どうして、こんなに胸がうるさいんだろう。

 窓に額をそっとつけると、ガラスが冷たくて気持ちよかった。目を閉じると、雨の音と電車の揺れだけが感じられた。

 かわいい、って。

 もう一度だけ頭の中で繰り返して、私は目をぎゅっとつむった。顔が熱いのは、きっと気のせいだ。そういうことにしておこう。絶対に、それ以外の理由なんてない。

 そうやって自分に言い聞かせながら、それでもなかなか消えない胸の熱さを持て余したまま、電車は雨の中を走り続けた。