「うん。まぁ、それを承知で編入してきたからね。だから今は帰宅部です」
それを承知で、という言葉が少しひっかかった。編入してきた理由は何なんだろう——そう思ったけれど、それを聞くのはなんとなくまだ早い気がして、やめておいた。
図書室に到着して、扉を開ける。いつもの紙と木の香りが鼻をくすぐって、肩から少し力が抜けた。カウンターの椅子に二人並んで腰かけると、雉真くんはカバンから文庫本を取り出して机に置いた。表紙に見覚えがあって、私はちょっと驚く。
「それ……この前私が勧めたやつだよね?」
「そうだよ。結構面白くて、一気読みしそうなくらいだよ」
「なら良かった、です」
自分が勧めた本を読んでいてくれているのが、なんとなく嬉しかった。悪い気はしない。本の趣味が合う人が身近にいるのは、素直に嬉しいことだ——たとえその人が男の子であっても。
「佑茉ちゃんは帰宅部なんだよね?」
「うん。得意なことがないから……去年は部活に入らないといけなくて、園芸部にいたかな」
「園芸部? 意外だな」
雉真くんが顔を上げて、少し驚いたように私を見る。
「意外?」
「なんか、文芸部とか図書部とかのイメージが強くて」
「図書委員だしね」
私は苦笑いをして、本棚の方へ立ち上がった。どの本を読もうか、指で背表紙をなぞりながら棚の前を歩く。
「園芸部は、外にいる時間が多くて……でも土いじりは嫌いじゃなかったかな。ちゃんと花が咲いてくれると、素直に嬉しかったし。水やりも、慣れたら習慣みたいになってきて」
「へぇ。じゃあ今年も入ればよかったのに」
「共学になったから、男の子がいるかもしれないじゃない。それは無理」
正直に言ったら、雉真くんは「そっか」と小さく呟いた。少しだけ、気まずそうな顔をして文庫本に目を落とす。
でも、これが本音だ。図書委員で一緒にいることには少しずつ慣れてきたけれど、それとこれとは別の話だ。自分でもどこまで慣れられるのか、まだわからない。
一冊の本が目に留まって、私は棚から引き抜いた。表紙をめくると、ページのにおいがした。席に戻って静かに開く。



