壱くん、お願いだから近づかないで。



 テストが終わり、六月。

 梅雨が始まってじめじめとした日が続いていた。朝から空は厚い雲に覆われていて、傘を持ってきたのに降らないままだったり、忘れた日に限ってざあっと降り出したりする。

 湿った空気が肌にまとわりついて、ブラウスの袖が腕にひっつく感触が一日中不快だ。廊下を歩けば窓の外はどんよりと灰色で、校庭の木々だけがやけに緑を主張している。

 梅雨って、好きじゃない。

 でも今日は調理実習があるから、それだけは少し楽しみにしていた。メニューはクッキーとマフィン。

 甘いものを作るのは好きだし、食べるのはもっと好きだ。

 実習室に入った時点では、なんとかなるだろうと思っていた。クッキーくらい、前にも作ったことがある。材料を混ぜて、冷やして、切って、焼くだけだ。工程だって難しくない。

 でも現実は、甘くなかった。



「え、なんで。なんでまとまらないの……」