壱くん、お願いだから近づかないで。





「待ってたって言えればかっこいいんだけど、場所がわからなくて」


 雉真くんは少しだけ苦笑いをした。


「そっか、じゃあ行こう。遅れちゃう」

「ん……」


 私は雉真くんを連れて実験室に向かった。
 実験室は中学部と高等部が共用で使う部屋で、A・B・C・Dの四つがある。今向かっているのは実験室B。

 二階の教室から階段を上がって三階へ行き、廊下を右に進んだ奥にある。近いようで遠くて、なんとなく不人気な場所だ。今頃きっとクラス中がブーブー言っていることだろうと想像しながら歩いていると、廊下に授業開始のチャイムが鳴り響いた。


「あ、チャイム鳴っちゃった」

「しょうがない。急な変更だったし、俺一人じゃ行けなかったから」

「……林田くんは?」

「角谷さんと先に行っちゃった」


 一緒に行けば良かったじゃない、と思ったけれど——それを言ってしまったら、なんだか意地悪な気がして。別に傷つけたいわけじゃないから、黙って廊下を進んだ。

 実験室に入ると先生がちょうど出席を取っているところで、角谷さんと林田くんが入り口の方に向かって「早く早く」と手招きしている。


「遅れてすみませーん」


 軽い調子で入ろうとしたけれど、案の定先生に呼び止められてしっかり怒られた。
 ただ、雉真くんが「場所がわからなくて迷子になってしまいました」と素直に言ったからか、それ以上のお咎めはなかった。


「佑茉ちゃん、大丈夫?」

「うん、なんとか……」


 席に滑り込んでプリントを受け取る。次のテストの範囲と内容が書かれていて、あとは板書をひたすら写すだけの授業だった。移動教室でやらなくてもよかったんじゃないかと思いつつ、シャーペンを走らせた。