壱くん、お願いだから近づかないで。




 ふと窓の外に目をやると、グラウンドでソフトボール部の子たちが大勢で走っているのが見えた。スパイクが砂を蹴る乾いた音と、顧問の先生の声が遠くから届いてくる。図書室の上は音楽室で、今日は吹奏楽部が練習しているらしく、管楽器の不揃いな音が天井越しに聞こえてくる。

 それでも、図書室の中は静かだ。

 カウンター近くには四、五人の生徒が来ていて、参考書を広げている人や、文庫本を読んでいる人がいる。そのうちの一人が雉真くんをちらちらと盗み見ているのに気づいて、なんだか複雑な気持ちになった。別に気にしてるわけじゃないけど。


「静かだなぁ……」


 手を動かしながら、ぽろっとそう呟いてしまった。こんなに静かで、やることもほとんどなくて、二人係がいる必要があるのかと思うくらい。聞こえてくるのはページをめくる音と、遠くで聞こえる部活の音だけだ。

 文芸小説の棚から一冊を手に取ってカウンター席に移動すると、雉真くんもすでに何かを読んでいた。私は静かに隣に座って本を開く。

 その時、吹奏楽部の練習が本格的に始まったのか、天井の向こうから綺麗なメロディーが聞こえてきた。不揃いだった音がひとつに揃って、柔らかく広がっていく。図書室にちょうどいいBGMみたいで、思わず目を閉じそうになるくらい心地よかった。


 静かな時間だ、と思った。

 雉真くんが隣にいることさえ除けば——完璧なのに。