壱くん、お願いだから近づかないで。





「佑茉ちゃん」


 隣から静かに名前を呼ばれて、私はびくっとした。


「……私、名前呼びするの許してないけど」

「あっ、ごめん。松岡さん」


 少し間があった。風が吹いて、木の葉がさわさわと揺れる。


「松岡さん、俺……好きです。前も言ったけど、諦められなくて」


 また、だ。


「付き合ってほしい」

「……嫌です、謹んでお断りします!」


 そう言いながら距離を取ろうと後ろに下がった、その瞬間。足が何かに引っかかって、体がふわっと傾く。

 どすっ、と地面に尻もちをついた。


「だ、大丈夫!?」


 雉真くんが立ち上がってこちらに駆け寄ってくる。木の根が出ていたみたいで、盛大に転んでしまった。手のひらがじりじりと痛い。