壱くん、お願いだから近づかないで。




「うん。僕、お菓子作りが好きではりきってきちゃったんだよね。角谷さんも良かったら」

「え、ありがとう〜もらう!」


 角谷さんは迷いなくひとつ取って「美味しそう!」と言いながら口に入れた。こういうところが、屈託なくて羨ましいと思う。


「佑茉ちゃん、どうぞ」


 私は少し戸惑いながら受け取って、一口かじる。サクサクとした食感と、バターの豊かな香り。
 市販のクッキーみたいで、本当に手作りなのか疑いたくなる。


「美味しい、です」

「本当!? 良かった。あ、今日の私服とても可愛いね」

「あ、……ありがとうございます」


 遠足の日は私服OKなので、私も制服ではない。白地にふんわりとした大きな襟がついたシアーブラウスに、やわらかく揺れるベージュのアシンメトリースカート、それにローファーとショルダーバッグを合わせてきた。でも隣の角谷さんを見てしまうと、比べるのが申し訳なくなる。

 角谷さんは赤のオフショルブラウスにシンプルなジーンズ、それにヒールを合わせていて、雑誌から出てきたみたいだ。
 私とはまるきり方向が違うのに、先生にも「二人とも可愛いね、バランスがいい」と言ってもらえたのは嬉しかった。

 窓の外に目を戻すと田んぼや木々が流れていく。バスの揺れに身を任せ、外を眺めながらため息をついた。