壱くん、お願いだから近づかないで。



  ***

「――松岡さん、大丈夫?」

「うん、大丈夫……」


 いえ、全く大丈夫じゃございません。

 ここはバスの中。窓の外を流れる景色を眺めているふりをしているけれど、私の意識はどうしても隣に向いてしまう。なんで私の隣に林田くんと雉真くんがいらっしゃるんでしょうか。どこを見ても、右を見ても左を見ても、男の子がいる。


「席、変わろうか?」

「ううん、大丈夫。ごめんね」


 気遣ってくれたのは、同じ班の角谷(すみや)果歩(かほ)ちゃんだ。はっきりした目鼻立ちにすらっとした長い脚、誰が見てもとびきりの美人さん。

 初めて会った時から物腰が柔らかくて、この班で唯一ほっとできる存在だ。


「佑茉ちゃん、お菓子焼いてきたんだけど食べる?」

「え……お菓子?」


 声をかけてきたのは、雉真くんだった。小さめのタッパーを開けると、きれいな丸い形のクッキーが並んでいる。ちゃんとラッピングもされていて、とても手作りには見えない。