そーちゃんの溺愛が止まらない⁉ ~今日も世界一可愛い君へ、ご褒美ハグを10秒だけ。~

★はじめてのお泊まりデートと、王子の理性の限界値★


高校を卒業し、私たちはそれぞれ都内の大学へと進学した。
そーちゃんは宣言通り、私の大学からも通いやすい場所に、ちょっとオシャレな1Kのマンションを借りて一人暮らしを始めている。
そして、大学生活にも少し慣れてきた6月の金曜日。
私は今、本日何度目か分からない「限界突破」のパニック状態で、そーちゃんの部屋の洗面所にこもっていた。
う、うわあああああん!!! 本当にお泊まりしちゃってるよ私!!!
鏡に映る自分の顔は、絵の具をひっくり返したみたいに真っ赤だ。
着ているのは、この日のために友達に相談して泣きながら買った、ちょっと大人っぽい(だけど露出は控えめな)ラベンダー色のノースリーブのルームウェア。
いつもなら、心の中の限界オタクが「推し(彼氏)と同棲シミュレーションだーーー!!」と大号泣しながらペンライトを振り回しているところだけど、今日ばかりはガチの緊張で足が震えている。
「よし……深呼吸。吸って、吐いて。大丈夫、いつものそーちゃんだから……!」
両手で頬をパンパンと叩き、意を決してリビングの引き戸を開けた。
「そーちゃん、お風呂ありがと……うわっ!?」
リビングに戻った瞬間、私はその場に固まった。
ソファに座って待っていたそーちゃんは、お風呂上がりの少し濡れた髪を無造作におろし、白のラフなTシャツ姿。
いつもより男の子っぽいというか、色気がダダ漏れになっていて、ただそこにいるだけで部屋の気圧が上がっている気がする。
「あ、ゆっちゃんお帰り。髪、ちゃんと乾かさな──……ッッッ!!!!(大激震)」
振り返って私を見た瞬間、そーちゃんは手に持っていたスマホを床に落とし、そのまま両手で顔を覆ってソファに突っ伏してしまった。
「そ、そーちゃん!? 大丈夫!? どこか痛い!?」
「ち、違うんだ優愛……。お風呂上がりの優愛が、湯気とラベンダーの香りをまとってて、マジで本物の女神が降臨したかと思った……。ルームウェアの隙間から見える鎖骨が国宝。可愛すぎて俺の理性がビッグバン起こして今すぐ宇宙が誕生しそう。無理、尊い、今すぐベッドに持って帰りたい……」
「もう! 相変わらず大げさだなぁ! ほら、立って!」
真っ赤になりながらそーちゃんのTシャツの裾を引っ張ると、そーちゃんは待ってましたと言わんばかりに起き上がり、私の手をガシッと恋人繋ぎでロックした。そのまま私を引っ張り、ソファに並んで座らせる。
ぴったりと触れ合うお互いの肩。
高校の時の制服越しとは違う、ダイレクトに伝わってくるそーちゃんの体温と、ほんのり香るウッディ系のシャンプーの匂いに、私の脳内は一瞬でキャパオーバーを起こしかけた。
「ねえ、優愛。学校の時も、実家でのデートの時も、いつも門限があったでしょ?」
そーちゃんが繋いでいない方の手を私の耳元に添え、いつものように、だけど少し低くて熱を持った声で耳打ちしてきた。
「でも、ここは俺の部屋だから。今日はもう、誰も呼びに来ないし、帰らなくていいんだよ? ……昨日からずっと、優愛をどうやって甘やかそうか考えて、俺、一睡もできなかったんだからね?」
悪戯っぽく、だけど男の人の少し強引な熱を含んだ瞳で見つめられる。
実家のお部屋デートでも、修学旅行の夜でもない。
ここは、誰の目も気にしなくていい、そーちゃんだけの聖域。
そんなの、想像しただけで私の心臓が爆発して木っ端微塵になってしまう……!
いつもなら恥ずかしくて「だめ!」って言うところだけど、高校を卒業して、私も少しだけ強くなったのだ。
私は恥ずかしさで爆発しそうな心臓を必死に抑え、そーちゃんのTシャツの胸元をぎゅっと握りしめながら、まっすぐにその瞳を見つめ返した。
「……知ってるよ。私も、今日は帰らないもん。……だから、その、気の済むまで、そーちゃんに甘えさせて……?」
初めて、自分からおねだりするようにそーちゃんを見上げ、そのままトスンと胸に顔を埋めた。
言った瞬間、世界が反転した。
「……っっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!(過去最大の悶絶)」
次の瞬間、ギューーーーーーーッ!!!!と、骨が折れそうなほどの強い力で、だけど壊れ物を扱うみたいに愛おしそうに、そーちゃんの大きな腕が私の体を抱きしめた。
Tシャツ越しに、ドクドクドクドクと、信じられないくらいの超高速で波打つそーちゃんの鼓動が、私の胸にダイレクトに響いてくる。
「無理無理無理!! 自分からホールドして甘えさせてとか、俺、嬉しすぎて本当に明日地球が滅亡するかもしれない!! っていうか、可愛すぎて無理、絶対に離さない。ねえ優愛、明日も明後日も、なんならこのまま一生俺の部屋に住んでくれない!?」
「それはまだ早いってばぁ……っ(笑)」
私の「ダメ」は、やっぱりそーちゃんの脳内で「もっと強く抱きしめて」に自動変換されたみたいで、結局私たちがベッドに潜り込んでからも、そーちゃんが私の手を握ったまま「優愛が隣にいる……生きててよかった……」と朝まで限界オタク化して呟き続けていたのは、言うまでもなかった。
幸せすぎて、明日が、そしてこれからの毎日が待ち遠しい。
大学生になっても、私たちの世界一平和で世界一甘い日常は、1ミリも速度を落とさずに、どこまでも進んでいくのだった──。




★小さなライバルの出現と、パパになった王子の可愛いヤキモチ★


高校の渡り廊下で永遠の愛を誓い合ってから、数年後。
私たちは結婚し、そして3ヶ月前、私たちの間に待望の第一子となる男の子──『蓮(れん)』が誕生した。
そーちゃんにそっくりなクリクリの目と、私の癖っ毛を引き継いだ、我が家の小さな天使。
だけど、この愛らしい天使の誕生によって、我が家の元・王子様(現・パパ)の脳内限界メーターは、今までにない方向へと大暴走を始めていた。
「──よしよし、蓮くん、おっぱいいっぱい飲んで偉かったねぇ」
土曜日の昼下がり。
リビングのソファで蓮くんを抱っこしてあやしていると、リビングのドアがガチャリと開き、仕事から帰ってきたそーちゃんが飛び込んできた。
スーツ姿のまま、相変わらず少女漫画からそのまま大人の男性に成長したような、ずるいくらいの超絶男前フェイス。
「ゆっちゃん、ただいま! 帰ってきたよ! 営業先から家まで光の速さで直帰してきた。あぁ、24時間ぶりに優愛の顔が見られて、俺の全細胞がスタンディングオベーションしてる……っ!」
「ふふ、おかえり、そーちゃん。お疲れ様」
私が蓮くんを抱っこしたまま笑顔で迎えると、そーちゃんは嬉しそうに突進してきた──が、私の腕の中でスヤスヤと眠る蓮くんの姿を見た瞬間、ピタッ、と動きを止めた。
そして、あからさまに幻の犬の耳をヘニャンと垂らし、ドラマのワンシーンのように胸を押さえてソファの端っこに崩れ落ちたのだ。
「そ、そーちゃん!? どうしたの、また心臓痛いの!?」
「ち、違うんだ優愛……。いや、心臓は別の意味で痛い。……蓮、また優愛の特等席(胸の中)を独占してる。ずるい。俺なんて、付き合ってた頃は10秒ハグしてもらうだけで地球の滅亡を覚悟するくらいの覚悟が必要だったのに、蓮のやつ、毎日24時間フリーパスで優愛にぎゅーってされてる……」
ヤキモチ、だった。
しかも、相手は生後3ヶ月の、自分の息子である。
「もう! 蓮くんはまだ赤ちゃんお人なんだから、ヤキモチ妬かないのっ」
「だって! 今日だって俺が『行ってきますのハグ』しようとしたら、蓮がタイミングよく泣いて優愛を奪っていったんだよ!? あいつ、絶対に確信犯(※誤用)だよ! 俺が優愛を愛でようとするたびに、絶妙なコントロールでギャン泣きして俺を牽制してくるんだ……。優愛は俺だけの特権だったのに……っ」
大真面目な顔で、実の息子を「恋のライバル」認定しているそーちゃん。
心の中の限界オタクは「アラサーのスーツ姿で息子に本気で嫉妬する旦那様、顔が良すぎて尊みの極みなんですけどおおお!!!」と大号泣しながらサイリウムを振り回しているけれど、さすがにパパとしてそれはどうなの、と苦笑いしてしまう。
「はいはい、そーちゃん。じゃあ、ちょっと蓮くんをベビーベッドに移すから、待っててね」
そっと蓮くんをベッドに寝かせ、掛け布団をかける。
ふぅ、と息を吐いて振り返った、その瞬間だった。
後ろから、ガシッ!!!と強い力で、だけど壊れ物を扱うみたいに優しい大きな腕が、私の体を抱きしめた。
スーツの少し硬い生地越しに、ドクドクドクドクと、学生の頃からちっとも変わらない超高速のそーちゃんの鼓動が、私の背中にダイレクトに伝わってくる。
いわゆる、キッチン(リビングだけど)でのバックハグだ。
「ひゃあ……っ!? そ、そーちゃん、急に何……っ」
「……足りない。優愛成分が全然足りない。俺、毎日仕事頑張ってるのに、お家帰ってきたら優愛の視線は蓮に100%持っていかれてるし、俺の入るスペースが1ミリもないんだもん」
そーちゃんは私の肩口に自分の顎を乗せ、耳元で愛おしそうに、だけどすっごく寂しそうに囁いてきた。
「ねえ、優愛。蓮が寝てる今だけ、俺に充電させて? 10秒とは言わない、蓮が起きるまでの限定でいいから、俺をいっぱいいっぱい甘やかして……?」
ずるい。
パパになっても、このきゅるんとした犬のような瞳で、ちょっと切なそうに許可を求めてくるなんて反則だ。
断れるわけがないじゃん……!!
私は恥ずかしさで爆発しそうな心臓を必死に抑え、そーちゃんのネクタイをぎゅっと握りしめながら、後ろを振り返って、その広い胸にそっとおでこをコツンとぶつけた。
「……嫌なわけ、ないじゃん。私だって、そーちゃんと2人きりになれて、すっごく嬉しいんだよ……?」
私の、妻になって初めての「精一杯のおねだり」。
それを聞いた瞬間、世界が反転した。
「……っっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!(過去最大の限界突破の悶絶)」
次の瞬間、さらに腕の力が強くなり、そーちゃんは私の頬に何度も自分の頬をすりすりと寄せてきた。
「無理無理無理可愛すぎて無理!!! 優愛が俺を好きって言ってくれた!!! よし、俺、明日から蓮に負けないくらい良い子にするから、毎晩のご褒美ハグの時間を10万秒に延長していい!?」
「だから10万秒は長いってばぁ……っ(笑)」
呆れ半分、だけど愛しさ無限大。
そんな私たちの甘いやり取りが聞こえたのか、ベビーベッドの方から「ふえぇ……」と小さな泣き声が聞こえてくる。
「あ、蓮くん起きちゃった!」
「ああっ、また蓮のやつ妨害工作を……! 待って優愛、あと3秒だけ!!」
パパになっても、子供が生まれても、私たちの世界一平和で、世界一甘い日常は、小さなライバルを巻き込みながら、さらに糖度を増してどこまでも続いていくのだった──。

(番外編・おわり)