文化祭の興奮も冷めやらぬまま、季節は一気に秋へと移り変わり、私たちは2年生の一大イベントである『修学旅行』で長崎に来ていた。
昼間の異国情緒あふれる街並みの散策も楽しかったけれど、私の心臓は、宿に到着してからずっと、別の理由でバックバクと鳴り響いていた。
なぜなら、今日の夜の自由行動の時間──そーちゃんと、2人きりで夜景を見に行く約束をしているからだ。
「よし……これで、大丈夫だよね」
ホテルの部屋で私服に着替え、上着を羽織る。
女子の友達には「ちょっと。そーちゃんと夜風浴びてくる!」と(顔を真っ赤にしながら)伝えてある。
みんな「おー、行ってらっしゃい! 戸締まりはちゃんとするのよ(笑)」とニヤニヤしながら送り出してくれた。
そーちゃんと待ち合わせたのは、ホテルの裏手にある、高台へと続く小さな公園。
階段を上りきると、そこには黒のウインドブレーカーをさらりと着こなしたそーちゃんが、夜風に吹かれながら待っていた。
相変わらず、ただ立っているだけで雑誌のグラビアみたいに格好いい。
「そーちゃん、お待たせ!」
「あ、ゆっちゃん! ……っ!!(絶句)」
振り返ったそーちゃんは、いつものように私の私服姿を見た瞬間、ドラマのワンシーンのように胸を押さえてしゃがみ込んだ。
「そ、そーちゃん!? どうしたの、また心臓痛いの!?」
「ち、違う……。今日の優愛、長崎の綺麗な夜景よりも100億倍きらきらしてて、俺の網膜が尊さで爆発した……。もこもこの上着とか、ちょっと寒そうに身を縮めてるのとか、可愛すぎて無理。今すぐ俺のウインドブレーカーの中に強制収容したい……」
「もう! 朝でも夜でも相変わらずだなぁ、立って!」
ぷんぷん怒りながらも、私はそーちゃんのウインドブレーカーの袖をぎゅっと引っ張る。
そーちゃんは待ってましたとばかりに立ち上がると、私の手をガシッと恋人繋ぎでロックした。
その手のひらが、秋の夜風の中で驚くほど温かくて、それだけで私の顔は火照ってしまう。
「わあ……っ、すごい……!!」
公園の展望スポットから見下ろす長崎の夜は、まるで宝石箱をひっくり返したように輝いていた。
山肌に沿ってきらめく無数の光が、本当に綺麗で言葉を失う。
「うん、綺麗だね。……でも、俺にとっては優愛の瞳に映ってる夜景の方が綺麗だけど」
「またそういうこと言う……!」
お決まりの胸キュン台詞に頬を染めていると、そーちゃんが繋いでいない方の手で、私のマフラーの端をそっと整えてくれた。
その時のそーちゃんの目が、いつもの暴走モードではなく、すっごく優しくて、真っ直ぐで。
「優愛。俺さ……こうして修学旅行の夜に、優愛と2人きりで夜景を見られて、本当に夢みたいなんだ」
「夢じゃないよ? ほら、手、繋いでるもん」
「あはは、そうだね。……ねえ、優愛。俺、最近よく考えるんだ。高校を卒業して、その先の未来のこと」
トーンの下がったそーちゃんの声に、ドキリとする。
そーちゃんは夜景を見つめたまま、だけど繋いだ手をさらに強く、指を絡めるようにして握りしめてきた。
「俺、大学に行っても、大人になっても、ずっと優愛の隣にいたい。っていうか、優愛以外との未来なんて1ミリも想像できないんだよね。だから……気が早いって笑われるかもしれないけど、俺、ずっと優愛を大切にするから。俺の未来を、全部優愛に受け取ってほしい」
夕日の逆光ならぬ、夜景の光を背負って、そーちゃんが私をじっと見つめる。
いつもは「可愛い! 尊い!」と大騒ぎしているそーちゃんが、不意に見せる、こういう男の子らしい、少し強引なくらいの熱を含んだ誠実な瞳。
周りには誰もいない、秋の星空の下。
そんなの、想像しただけで私の心臓が爆発して木っ端微塵になってしまう……!
だけど、文化祭で自分から甘えることを覚えた私は、もう恥ずかしがって逃げたりはしなかった。
私はブレザー(じゃなくて、もこもこの上着)の裾をぎゅっと握りしめ、そーちゃんの胸にそっとおでこをコツンとぶつけた。
「……笑わないよ。私も……そーちゃんと同じだもん」
「優愛……?」
「直接は、恥ずかしくてなかなか言えないけど……。私も、卒業しても、その先も、ずっとそーちゃんの隣にいたい。……私をずっと、そーちゃんだけの特等席に置いてね?」
私の精一杯の、未来の約束。
それを聞いた瞬間、世界が反転した。
「……っっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!(声にならない大悶絶)」
次の瞬間、強い力で、だけど壊れ物を扱うみたいに優しく、そーちゃんの大きな腕が私の体を抱きしめた。
ウインドブレーカー越しに、ドクドクと信じられないくらい速い鼓動が、私の耳にダイレクトに伝わってくる。
「無理無理無理!! 可愛すぎて本当に明日地球が滅亡するかもしれない!! っていうか、いまの言葉ボイスレコーダーに録音して毎朝アラームにしたい!!! 優愛、大好き、愛してる、宇宙がひっくり返っても離さないからね!?」
「だーかーら、声が大きいってばぁ……っ(笑)」
私の「ダメ」は、やっぱりそーちゃんの脳内で「もっと抱きしめて」に自動変換されたみたいで、結局私たちがホテルの門限ギリギリまでその場を離れられなかったのは、言うまでもなかった。
幸せすぎて、未来が待ち遠しい。
繋いだ手から伝わる熱を感じながら、私たちは星空の下、これからの長い未来の約束を、静かに重ねていくのだった。
昼間の異国情緒あふれる街並みの散策も楽しかったけれど、私の心臓は、宿に到着してからずっと、別の理由でバックバクと鳴り響いていた。
なぜなら、今日の夜の自由行動の時間──そーちゃんと、2人きりで夜景を見に行く約束をしているからだ。
「よし……これで、大丈夫だよね」
ホテルの部屋で私服に着替え、上着を羽織る。
女子の友達には「ちょっと。そーちゃんと夜風浴びてくる!」と(顔を真っ赤にしながら)伝えてある。
みんな「おー、行ってらっしゃい! 戸締まりはちゃんとするのよ(笑)」とニヤニヤしながら送り出してくれた。
そーちゃんと待ち合わせたのは、ホテルの裏手にある、高台へと続く小さな公園。
階段を上りきると、そこには黒のウインドブレーカーをさらりと着こなしたそーちゃんが、夜風に吹かれながら待っていた。
相変わらず、ただ立っているだけで雑誌のグラビアみたいに格好いい。
「そーちゃん、お待たせ!」
「あ、ゆっちゃん! ……っ!!(絶句)」
振り返ったそーちゃんは、いつものように私の私服姿を見た瞬間、ドラマのワンシーンのように胸を押さえてしゃがみ込んだ。
「そ、そーちゃん!? どうしたの、また心臓痛いの!?」
「ち、違う……。今日の優愛、長崎の綺麗な夜景よりも100億倍きらきらしてて、俺の網膜が尊さで爆発した……。もこもこの上着とか、ちょっと寒そうに身を縮めてるのとか、可愛すぎて無理。今すぐ俺のウインドブレーカーの中に強制収容したい……」
「もう! 朝でも夜でも相変わらずだなぁ、立って!」
ぷんぷん怒りながらも、私はそーちゃんのウインドブレーカーの袖をぎゅっと引っ張る。
そーちゃんは待ってましたとばかりに立ち上がると、私の手をガシッと恋人繋ぎでロックした。
その手のひらが、秋の夜風の中で驚くほど温かくて、それだけで私の顔は火照ってしまう。
「わあ……っ、すごい……!!」
公園の展望スポットから見下ろす長崎の夜は、まるで宝石箱をひっくり返したように輝いていた。
山肌に沿ってきらめく無数の光が、本当に綺麗で言葉を失う。
「うん、綺麗だね。……でも、俺にとっては優愛の瞳に映ってる夜景の方が綺麗だけど」
「またそういうこと言う……!」
お決まりの胸キュン台詞に頬を染めていると、そーちゃんが繋いでいない方の手で、私のマフラーの端をそっと整えてくれた。
その時のそーちゃんの目が、いつもの暴走モードではなく、すっごく優しくて、真っ直ぐで。
「優愛。俺さ……こうして修学旅行の夜に、優愛と2人きりで夜景を見られて、本当に夢みたいなんだ」
「夢じゃないよ? ほら、手、繋いでるもん」
「あはは、そうだね。……ねえ、優愛。俺、最近よく考えるんだ。高校を卒業して、その先の未来のこと」
トーンの下がったそーちゃんの声に、ドキリとする。
そーちゃんは夜景を見つめたまま、だけど繋いだ手をさらに強く、指を絡めるようにして握りしめてきた。
「俺、大学に行っても、大人になっても、ずっと優愛の隣にいたい。っていうか、優愛以外との未来なんて1ミリも想像できないんだよね。だから……気が早いって笑われるかもしれないけど、俺、ずっと優愛を大切にするから。俺の未来を、全部優愛に受け取ってほしい」
夕日の逆光ならぬ、夜景の光を背負って、そーちゃんが私をじっと見つめる。
いつもは「可愛い! 尊い!」と大騒ぎしているそーちゃんが、不意に見せる、こういう男の子らしい、少し強引なくらいの熱を含んだ誠実な瞳。
周りには誰もいない、秋の星空の下。
そんなの、想像しただけで私の心臓が爆発して木っ端微塵になってしまう……!
だけど、文化祭で自分から甘えることを覚えた私は、もう恥ずかしがって逃げたりはしなかった。
私はブレザー(じゃなくて、もこもこの上着)の裾をぎゅっと握りしめ、そーちゃんの胸にそっとおでこをコツンとぶつけた。
「……笑わないよ。私も……そーちゃんと同じだもん」
「優愛……?」
「直接は、恥ずかしくてなかなか言えないけど……。私も、卒業しても、その先も、ずっとそーちゃんの隣にいたい。……私をずっと、そーちゃんだけの特等席に置いてね?」
私の精一杯の、未来の約束。
それを聞いた瞬間、世界が反転した。
「……っっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!(声にならない大悶絶)」
次の瞬間、強い力で、だけど壊れ物を扱うみたいに優しく、そーちゃんの大きな腕が私の体を抱きしめた。
ウインドブレーカー越しに、ドクドクと信じられないくらい速い鼓動が、私の耳にダイレクトに伝わってくる。
「無理無理無理!! 可愛すぎて本当に明日地球が滅亡するかもしれない!! っていうか、いまの言葉ボイスレコーダーに録音して毎朝アラームにしたい!!! 優愛、大好き、愛してる、宇宙がひっくり返っても離さないからね!?」
「だーかーら、声が大きいってばぁ……っ(笑)」
私の「ダメ」は、やっぱりそーちゃんの脳内で「もっと抱きしめて」に自動変換されたみたいで、結局私たちがホテルの門限ギリギリまでその場を離れられなかったのは、言うまでもなかった。
幸せすぎて、未来が待ち遠しい。
繋いだ手から伝わる熱を感じながら、私たちは星空の下、これからの長い未来の約束を、静かに重ねていくのだった。



