そーちゃんの溺愛が止まらない⁉ ~今日も世界一可愛い君へ、ご褒美ハグを10秒だけ。~

そんな風に、糖度2000%の空間でギャーギャーと(主に私が)騒いでいた時だった。
──ピンポーン。
静かな一軒家に、突如として鳴り響いたインターホンの音。
「あれ? 誰もいないはずじゃ……。あ、母さん、今日パート早上がりって言ってたっけ」
「えっ、お、お母さん!?」
その言葉を聞いた瞬間、私の背筋に電撃が走った。
お母さん。
つまり、そーちゃんを生み育てた、この世で最も偉大な存在。
そして、将来(脳内妄想では)お義母様になるかもしれないお方……!
「ちょっと、そーちゃん!! 私、どうすればいいの!? 押し入れに隠れる!? それとも窓から飛び降りて不法侵入者として逃走する!?」
「なんでそんなアサシンみたいな動きしようとするのさ(笑)。大丈夫だよ、母さん、優愛のこと『早く連れてきなさい』って毎日うるさかったし。ほら、一緒に下行こ?」
「大丈夫」なわけがない。
今日の私は、学校帰りの普通の制服姿。
髪型だって、朝からそーちゃんに揉まれて(ハグのせいで)少し崩れているかもしれない。
ドクドクと、お部屋デートとは全く違うベクトルの緊張で心臓が破裂しそうになりながら、私はそーちゃんの後ろに隠れるようにして1階の玄関へと降りて行った。
ガチャ、とドアが開く。
「ただいまー。あら、颯太。自転車があると思ったら、もしかして……」
そこにいたのは、そーちゃんによく似た、すっごく美人で優しそうなお母様だった。
お母様の視線が、そーちゃんの背中からひょこっと顔を出している私に留まる。
「は、はじめまして……っ! 同級生の、高橋優愛と申します……っ! 本日は、その、お邪魔しております……っ!!」
緊張が極限に達した私は、まるで軍隊の挨拶のような大声で、直立不動のまま頭を下げた。
心の中の限界オタクは、すでに「不敬罪で処刑される!!!」と大号泣しながら五体投地している。
すると、お母様は一瞬きょとんとした後、パァァァッと顔を輝かせた。
「あら、まぁ……! あなたが優愛ちゃん!? 颯太が毎日毎日、ご飯食べる時も、お風呂上がりも『優愛が世界一可愛い』『優愛の爪の形が神がかってる』って壊れたラジオみたいに語ってた、あの優愛ちゃんね!?」
「ぶふっっっ!?」
お母様の口から暴露された、そーちゃんの家での奇行。
爪の形って何!? どこ見てるのあのワンコ!?
「か、母さん!! それは俺と優愛の神聖な秘密(?)なんだから、今ここでバラさないでよ!」
「何言ってるの、本当のことじゃない。まぁ、本当に可愛らしい子。聡にはもったいないくらいね。優愛ちゃん、いつもこのバカ息子の重すぎる愛に付き合ってくれてありがとうねぇ」
お母様はそう言って、私の手を優しく包み込んでくれた。
その温かさに、ガチガチだった私の緊張が、じわっと解けていく。
「あ、いえ……! 私、私の方こそ、そーちゃん……あ、颯太くんに、いつも良くしてもらっていて……。その、大好き、なんです……っ」
あ。
お母様の前で、緊張のあまり「大好き」って口走っちゃった。
私が自分で放った言葉の破壊力に気づき、両手で口を覆って耳まで真っ赤になった瞬間──。
バタン、と横で大きな音がした。
見ると、そーちゃんが玄関の壁に頭を打ち付けたまま、限界を迎えた顔でぶつぶつと呟いていた。
「……聞いた? 今、母さんの前で『大好き』って……。しかも『颯太くん』って……。あ、無理、限界、尊死する。今日の命日、カレンダーに赤ペンで書いておいて……」
「ちょっと、颯太! 玄関で気絶しかけるんじゃないわよ、見苦しい!」
お母様に怒られながらも、そーちゃんは真っ赤な顔で私を振り返り、涙目になりながら嬉しそうに微笑んだ。
「優愛……帰ったら、今のセリフ、ボイスレコーダーに録音させてね……?」
「絶対に嫌ですっっ!!!!」
お母様の「お夕飯、食べていく?」というありがたいお誘いを、これ以上の心臓のキャパオーバーを恐れた私が泣く泣くお断りし、今日のところは帰路につくことになった。


帰り道、すっかりオレンジ色から群青色に変わった夜道を、私たちは歩く。
そーちゃんは、いつも以上に私の手をぎゅーーーっと、それはもう愛おしそうに握りしめていた。
「ねえ、優愛。さっきの、本当に嬉しかった」
「……もう、忘れてってば。恥ずかしすぎて死にそうなんだから」
「忘れるわけないじゃん。家宝にする。……俺さ、もっと優愛にふさわしい男になるからね。優愛のご両親にも、いつかちゃんと挨拶しに行くから」
いつもは「可愛い! 尊い!」と大騒ぎするそーちゃんが、不意に見せる、こういう真っ直ぐで誠実なトーン。
街灯の光に照らされたその横顔が、ずるいくらいに格好良くて。
「……うん。楽しみにしてるね、そーちゃん」
私は繋いだ手に少しだけ力を込めながら、世界一の幸せを噛み締めていた。
だけど、この時の私たちはまだ知らなかったのだ。
次の季節、2人の絆を揺るがす「超めんどくさーい」あのイベントが待ち受けていることを──。