そーちゃんの溺愛が止まらない⁉ ~今日も世界一可愛い君へ、ご褒美ハグを10秒だけ。~

キーンコーンカーンコーン……。
放課後を告げるチャイムが鳴り響いた瞬間、私の心臓は本日何度目か分からないギネス記録級の暴走を始めていた。
「ゆっちゃん、お待たせ! 予告通り、全授業を秒速で終わらせてきたよ!」
「あはは、そーちゃんお疲れ様。本当に授業中、ずっと背中から『早く放課後になれ光線』が出てたよ?」
机の横にすっ飛んできたそーちゃんは、すでにスクールバッグを完璧にセットし、いつでも 出発できる状態。
その瞳は、まるでこれから遊園地に行く子供みたいにキラキラと輝いている。
周りのクラスメイトたちが「お、またごちそうさまです」「今日もイチャイチャだなー」なんて生暖かい視線を送ってくる中、私たちは手を繋いで校門を飛び出した。
そーちゃんの家に向かう道中、繋いだ手から伝わってくる熱のせいで、私の脳内はすでに半分キャパオーバーを起こしかけていた。
ど、どうしよう……。本当にそーちゃんの部屋に行くんだよね? 2人きり……誰もいない……。私、生きて帰れるのかな!?
心の中の限界オタクが「遺言書は書いたか!? 心の準備はいいか!?」と大騒ぎしている間に、目の前に見慣れたシックな一軒家が現れた。そーちゃんの家だ。
ガチャリ、と鍵を開けて、そーちゃんが「どうぞ」と私を中に招き入れる。
「おじゃまします……」
「おじゃまされちゃってください! さ、俺の部屋、2階だから行こ?」
階段を上るそーちゃんの背中を追いかけながら、ゴクリと唾を飲み込む。
案内された部屋のドアが開くと、そこはすっきりと片付いた、だけどほんのりとそーちゃんの甘い柔軟剤の香りが漂う「男の子の部屋」だった。
「適当にベッドのフチとか、クッションに座ってて。すぐ飲み物持ってくるからね」
そう言ってそーちゃんが部屋を出て行った瞬間、私は部屋の真ん中で崩れ落ちそうになった。
無理無理無理!! ここがそーちゃんの聖域……! カーテンの色も、本棚の参考書も、全部が格好良すぎて空間そのものが尊い……っ!!
壁に飾られた部活の写真のそーちゃんすら男前すぎて、すでに視界が幸せでかすみそうだ。
私が部屋の大きめのクッションにちょこんと正座して小さくなっていると、すぐにそーちゃんが冷たい麦茶を持って戻ってきた。
「はい、ゆっちゃん。……って、なんでそんなに端っこで緊張してるの? 借りてきた猫みたいで可愛すぎるんだけど」
「う、うるさいなぁ……っ。緊張くらいするよ、男の子のお部屋なんだから」
トレイを机に置き、そーちゃんは私のすぐ隣に、信じられない距離感でドサッと腰を下ろした。
お互いの肩が、ぴったりと触れ合う。
「ねえ、優愛。学校でも言ったけど……今日の俺、全然自制心効かせるつもりないからね?」
そーちゃんの低い声が、至近距離で鼓膜を震わせる。
振り返ると、いつものワンコみたいな笑顔は消えていて、少しだけ熱を帯びた「男の人の目」が私をじっと見つめていた。
「あ、の……そーちゃん……?」
「昨日さ、優愛が背中に手、回してくれたでしょ。あれのせいで、俺の脳細胞が24時間ずっと優愛のことでパニック起こしてんの。だから──」
そーちゃんの長い腕が、私の腰に滑り込んできた。
そのまま引き寄せられ、私は気がつくと、床に座るそーちゃんの膝の間にすっぽりと収まるような形で、後ろから包み込まれていた。
いわゆる、バックハグ。
それも、部屋の壁に背中を預けたそーちゃんに、完全にホールドされる形だ。
「ひゃあ……っ!?」
「っあー……これ、やばい。最高。全細胞が歓喜してる。優愛、すっごく柔らかくて、いい匂いする……」
そーちゃんは私の肩口に自分の顎を乗せ、ふーっと深い息を吐き出した。
耳元にダイレクトにかかる吐息。
背中全体に感じる、そーちゃんの高鳴る鼓動と、ガッシリとした広い胸の厚み。
「ちょ、ちょっと、そーちゃん近すぎ……っ! お昼のハグより、ずっと密着して……!」
「だって『気の済むまで』って言ったもん。優愛が可愛すぎるのが悪いんだからね? ほら、手、貸して」
そーちゃんは私の右手をすくい上げると、自分の大きな手で包み込み、そのまま指を一本ずつ絡めるようにして恋人繋ぎにした。
「学校じゃ、誰かに見られるかもって気にするでしょ? でもここなら、俺が優愛をどれだけ愛でても、誰にも文句言われない。……ねえ、優愛。俺に後ろからハグされるの、嫌?」
ずるい。
耳元で、そんなちょっと不安そうな声を出すなんて、本当にずるすぎる。
嫌なわけない。
むしろ、嬉しすぎて心臓のバックバクがそーちゃんにダイレクトに伝わっているはずなのに。
「……や、嫌じゃ、ない、けど……」
「けど?」
「……心臓が、破裂しそうで、恥ずかしいの……っ」
顔を真っ赤にしてそっぽを向くと、そーちゃんは「んふふ」と嬉しそうに喉を鳴らして、私の首筋に優しくおでこをコツンとぶつけてきた。
「俺も同じだよ。ほら、俺の心臓の音、背中に響いてるでしょ? 優愛が可愛すぎて、俺、今世界で一番幸せな男だと思う」
背中から伝わる、トクトクと速い脈拍。
余裕そうに見えるそーちゃんも、私を抱きしめる腕に少しだけ力が入っていて、本当に緊張しているのが伝わってくる。
私は恥ずかしさを必死にこらえながら、繋がれていない左手で、そーちゃんの腕をそっと包み込んだ。
「っ……!」
「……そーちゃん。私も……すっごく、幸せ、だよ……」
蚊の鳴くような声だったけれど、私の精一杯の告白。
それを聞いた瞬間、そーちゃんの呼吸が一瞬止まり、次の瞬間、まるでご褒美を貰ったワンコのように、私の頬に何度も自分の頬をすりすりしてきた。
「優愛、大好き!!! もう一生離さない!! このまま融合して一つになりたい!!! ねえ、今日このまま泊まっていって!? 俺が美味しいご飯100品作るから!!」
「泊まらないし100品は多すぎっ!! ほら、そーちゃん、苦しいってば……っ!」
呆れ半分、だけど愛しさ無限大。
誰の目も気にしなくていい、そーちゃんの部屋という「聖域」で、私たちは夕日が沈み、部屋が暗くなるまで、ずーっとそうして身を寄せ合っていたのだった。