真剣に悩んでいるお父様を見て、私は勝ちを確信して小さく微笑んでいると、ギル様は余計な一言を添えた。
「とてもリリィ嬢は元気で愛らしく素晴らしい。是非とも次回の夜会でパートナーをお願いしたい。ダメ、でしょうか?」
きっと他の令嬢なら泣いて喜ぶこの提案、私はごめんだ。お願いだからお父様断って!こんな男に騙されたらダメだからねっ!!
私は心の中で、必死にお父様を応援し続けた。
だけれど、お父様の表情が心配そうにしていた顔から、次第に口角が緩みだし最後は嬉しそうにキラキラと瞳を輝かせ始める。
「公爵様は、うちの娘の可愛いらしさをよくご存知で……!おい、リリィ!こんな光栄な話はないぞ、いいんじゃないか?!」
私を溺愛するお父様に、ギル様の言葉が見事にクリティカルヒット。嘘の言葉にまんまと引っかかったお父様は、私のことを褒められとても浮かれている。
「で、でも……」
「公爵様はお前のことをよく分かっているじゃないか!リリィにとってもいい機会なんじゃないか?!」
キラキラとした瞳でお父様に見つめられ、何も言えなくなる。まんまとやられてしまった私にはギル様を突き落とした代償があり、もちろん拒否権など無い。
それを分かっているギル様は、計算通りと言わんばかりの顔で微笑みながら、わざとらしく王子様のように手を差し出してくる。
「リリィ嬢、是非私のパートナーに」
引きつった笑顔を作る私は、お父様の手前、差し出されたその手に震える自分の手を重ねた。
「……は、はい。よ、喜んで……」
「ありがとう、リリィ嬢。夜会で可愛いらしい君に会えるのをとても楽しみにしているよ」
計算通りに事が進んだギル様は満足そうに微笑むと、重ねられたその手の甲に紳士らしく、そっと優しいキスを落とした。
ギョッとする私をよそにギル様は、握る手をそのまま軽く引き寄せると、耳元でそっと囁いた。
「もし逃げたらどうなるか……わかっているよな?」
私を最後の最後まで悪魔のように脅すと、近づいていた体がスっと離れて、手元が開放される。
そのままギル様は何事も無かったかのように、いつもの完璧な社交界フェイスに戻るのだった。
そして呆然とする私の横で、ギル様はお父様と挨拶を交わし最後には綺麗な一礼をすると、美しい黒髪を靡かせながら満足気に去っていった。



