婚約が嫌で男装執事になったのに~配属先が婚約者の元でした~【完】編集中


慌てる私を他所に、ギル様は社交界の時によく見かける完璧な笑顔をお父様に振り撒いていた。

「これぐらいの事、私には容易いですよ」

「久しぶりに素晴らしいものを見せてもらったよ、今度ぜひ娘を受け止められる秘訣を知りたいものだねぇ。リリィ、怪我はなかったかい?」

そこでやっとお父様の視線が私に戻り、手を差し伸べてきた。

ギル様は、何食わぬ顔をして「逃げるなよ」とお父様にバレない小さな声でコッソリと私に囁き、私がお父様の手を取るのを見届け、そっと地面に降ろしてくれた。


この場からさっさと逃げ出したいけれど、逃げたらヤバい予感しかしない私は、そのまま目の前でお父様とにこやかに話を続けるギル様を見守ることしかできなかった。

お父様には、社交界で見かける時のようにとても感じよく喋る二面性のあるギル様に、私は前世のモラハラ男の姿がやっぱり脳裏に浮かんでしまう。

こういう人が一番やばいんだよね……。
モラハラ男は早く帰れ!帰れ!!帰れ!!!

そんな念を送っていると、私の視線に気づいたギル様がチラリとこちらに視線を向けて、パチリと目が合う。


その瞬間、ふわっと優しく甘い笑顔を私に向けてくるのだ。

他の令嬢なら鼻血ものだろう。それぐらい顔がいいのは認める……だけれど、私はモラハラはごめんよっ!!

プイっと顔を背けると、ギル様はなぜだか嬉しそうにクスっと小さく笑いを零すのだった。