『恋愛ってなんですか?』

 暗くなった道を、街灯頼りに二人で歩く。
 
 人通りは少なく、帰宅ラッシュ時間なのもあって、学生より帰宅途中の社会人のが目立った。
 夜独特のこの空気感が、私は結構好きだ。
 図書館で勉強していて気になったことがある。
「そういえば、朔って眼鏡なんだね」
 いつもは眼鏡をかけていない朔が、図書館で勉強を始める時は眼鏡をかけていた。
「別に全く見えない訳じゃないけど、勉強に集中する時は付けてる。」
「そうなんだ。なんか眼鏡ってかっこいいよねー」
「?」
 えっと……。特に深く意味を考えていなかった。
 少し考え、捻り出す。
「なんか、色々出来そうに見えるから?」
「単純だな」
 朔の顔が緩む。確かにこれは、かっこいい。
 学校で人気があるのも当然だ。その横顔がとても素敵に見えて。ん……?何を考えてるんだろう私は。
 私は話を切り替える。
 
「朔の集中力って凄いよね!」
「そうか?」
「私はもう残量ゼロ」
 指でバツを作りながら、もう今日は頑張れない事を体を使って表現する。
「ふっ……」
「朔って私の動き見てよく笑う」
「?自分じゃわからないな」
「うーん」と朔は顔を顰めた。
「ずっと無表情だし、最初は何考えてるのかわかんなくて困ったけど。今は話すのも楽しいよ」
「そりゃどうも」
 満更ではないのか、朔は微かに微笑んでくれた。
「遥のおかげかもな」
「私、何にもしてないよー?」
 嬉しいような、恥ずかしいような、変な気持ちだ。

「そういえばこの前――」
 ――――……
 
 他愛ない話をしながら帰路を辿る。
 少し前までは、男の人とこうして話しながら歩くなんて、想像すらつかなかった。
 毎日同じ日々を繰り返せればいいと思っていた私だけど、新しい友達が増える。
 こういう変化は悪くない、そう思えるようになった。
 曲がり角に差しかかった時、向かいからライトのついていない自転車が飛び出してきて驚く。
 
「えっ!?」
 
 頭でどうするか考える頃には、既に強い力で体を引っ張られていた。
 自転車の男性は降りることなく、足早に去っていく。
 驚いた。光も見えなかったから、何も考えず曲がる所だった。避けられなかったら、また怪我していたかもしれない。
「ありがとう、助かったよ――」
「大丈夫か?」
 
 顔を上げると、息が届きそうなくらい、近い場所に朔の顔があった。顔が、近すぎる。
 
 経験した事のない状況に心臓が大きく聞こえる。
 落ち着いて見ると、私は朔に片手で抱きしめられていた。
 
「どぅえっ!?!?」
 顔から火を吹いてしまいそうな恥ずかしい状況に、思わず珍妙な声を上げる。
 今の私はすごい気持ち悪い奴かもしれない。
 「朔!ありがとう!もう大丈夫!」
 慌てて朔から離れようと体をバタつかせる。
 朔は私が離れようとしているのに気づいたのか、私を解放した。
「怪我は?」
「大丈夫……!」
 何か悪い事をしたわけでもないのに、なんで私焦ってるんだろう。
 気を落ち着かせてから、また二人で駅へと進み始める。
 
 耳の火照りがなかなか引かない。
 その隣で、朔の耳も少し赤くなっていたことを、私は知らなかった。
 
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 中間テストまであと僅か。
 
 教室内はテストシーズン特有の雰囲気に包まれ、廊下側一番前の席に座る葵の姿は、屍と化していた。
「無理、テスト嫌いー……」
「小学生か」
 私は葵の頭にチョップを入れる。
 葵はテストの度に、こうやってごねるのが止まらない。
 
 彼女の愚痴はまだ続く。
「スポーツ推薦の人間を進学科なんかに入れた奴は誰だよぉ……スポーツ特化で来てるのに、勉強まだ特化させようとするじゃないよぉ……」
「勉強は大切だぞー」
 私は葵に誤魔化しようのない現実を突きつけた。
 
「あおちゃん、荒んでるねぇ」
 登校してきた由乃がひょこっと私の後ろから顔を出す。
「由乃、おはよう。」
「よーしーのぉ……」
 荒む葵の頭を「よしよーし」と由乃は撫でる。
 私は葵が荒んでいる原因を由乃に説明した。
「そっかぁいつも通りだねぇ」
 一瞬考え込み、「そうだぁ!」と由乃は何か思いついたように話し出す。
 
「テスト、終わったらみんなでデートしようよ」
『『デートぉ?』』
 
 由乃の突拍子もない発言に二人で顔を顰める。
 結論から言うと、私達と拓真と朔の五人でどこかに遊びに行こうという意味らしい。
「そうだろうなとは思いましたけども。」
 それ、デートではない。
「それをデートとは言わんやろ……デートの概念間違えてるって……」
 引いた顔で由乃を見つめる葵。
「だって男女が日時を決めて、会う事をデートっていうでしょ?だから合ってるよぉ」
 「ね?」と可愛く首を傾げる由乃。
『『うぅん?』』
 由乃の言いたい事は分かるけど、絶対違うと思った。
「まぁ、楽しそうだからいっか」
「でしょぉ?」
「よーしテストさっさと終わらせるぞー!」
「後でたくちゃんにも話しておくねぇ。朔くんにもはるちゃんから話しておいてくれる?」
「んー。わかったー」
 
 話を終え、席へと戻ると丁度よく予鈴が鳴った。
 
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 昼休み。
 自分の席でお弁当を広げ、食べやすいよう机に並べる。
 すると、購買にパンを買いに行っていた朔が帰ってきた。
「今日は何パン?」
「カレーパン」
「購買のカレーパン美味しいよね。個人的にはコロッケパンも捨てがたい」
「確かにあれは美味い」
「でしょ!」
 私も購買のパンはたまに買う。
「拓真達は?」
 朔はパンの袋を破り、頬張りながら聞いてくる。
「由乃と拓真は茶道部の子達と話ついでに、葵も部活の人達と話があるからそっちでご飯するって」
「そうか」
 
 ……あれ?
 
「朔、いつもお昼は購買のパン二つ食べてるけど、今日は一つで足りるの?」
 朔はいつも二つパンを買ってくるが、今日は一つしか持っていなかった。
「まぁ、足りてはないけど。出遅れたから仕方ない」
「購買のパン、競争率高いもんね」
 お節介かなとも思いつつ、朝作った弁当の唐揚げを箸で挟み、朔に差し出してみる。
「作った唐揚げ、食べる?」
「……いいのか?」
 
 朔は少し躊躇うが、嫌な訳ではなく、私のお弁当が減るのを気になる様だ。
「朝食べ過ぎたからそんなお腹空いてなかったし、良ければだけど。美味しさは保証しないけどね!」
「なんだそれ」と、朔は優しく微笑んだ。
 朔の綺麗な顔がこちらに近づく。口をゆっくりと開けてパクッと箸を挟む。
「……美味いな」
 
 朔の嬉しそうな表情に心臓が。この前からなんか私は変だ。なぜか心が落ち着かない。変な感じ。私は箸を動かす。
「ほ、ほんとー?!はい!これも!成長期なんだから食べな食べなー!」
 次々とおかずを入れるため、弁当から朔の口に運ぶ。
「ちょ、遥、まっ」
 朔の口はおかずを詰められた状態だった。

「あ。」
 朝、由乃達と話した事を思い出す。
「朔、中間テスト終わったらみんなで遊びに行かない?」
 口の中に放り込まれたおかずを食べ切ってから、朔は話し始める。
「みんな?」
「葵・由乃・拓真と私達」
「あぁ」
 朔は納得した顔だ。
「場所はまだ決まってないけど、どう?」
「いいよ」
「じゃあ決まりね」
 友達とお出かけ。実は一年の時はバイトばかりでほとんどした事がない。楽しみ。
 私は空になったお弁当箱を袋に入れた。
 中間テストの結果は、1位佐伯朔 2位佐藤遥――6位田崎由乃――8位夏川拓真――――31位 橋口葵 と、無事に何事もなく終えたのだった。