『恋愛ってなんですか?』


 「朔……?」

 ショッピングモールを出て、駅に向かって歩く。
 私の手を握ったまま、荷物も全部、朔が持ってくれている。

「……。」

 朔は前を向いたまま、歩き続けた。

 私の反応が変だったから、気にしてくれたんだ。
 この手を握っている理由はそれだけ。
 
 私より少し前を歩いて顔を見せないのも、きっと深い意味はない。



 わかっているのに。
 朔との間に流れる空気が。
 彼の見せる態度が、その考えを否定する。
 

 

「ねぇ、朔」

「……どうした」

「違ってたら、言ってね」

「……。」

 
「朔、私のことを……好きだったりする?」


 

 朔の手に、力が入る。
 
 返事を聞くのが怖い。
 怖いのに、聞きたいと思う自分がいる。
 

「……あぁ。」

 朔は足を止めない。
 顔も見えない。
 私の手を離さないまま、はっきりと言った。

 
「遥が好きだ。」
 

 
 
 道路を走る自動車の走行音が遠く。
 世界に私と朔しかいないみたいに静かだった。
 心臓が脈を打ち、体温が上がるのを感じる。
 
 朔の答えは、私の中を埋め尽くした。

 
 私の視線は下に落ちる。
 
 本当はわかってる。 知り始めてる。
 それでも、変化は怖い。
 私の中の恐怖が言葉にするのを止めた。
 
 言葉が 出なかった。

 
「……いい。」
「え……」

「今はいい。もっと、考えてからでいい。千雅のこともあるだろ」

 朔の言葉に一瞬思考が止まる。
 そっか。千雅のことも知ってたんだ。
 
 私は朔に聞いた。
「……なんで私なの?」
 私より可愛い子なんて、いくらでもいるのに。

 朔の歩調が私と揃う。
「最初は全然意識してなくて、気にしてもいなかった。それが、一緒にいると楽しくて、そばにいるのが当たり前になった。遥といるとパズルのピースがピッタリハマるような感覚になるんだ」
「……不思議だね。」
「不思議だよな。俺も不思議なんだ。」

 私たちの横を風が通り抜け、木々が優しく揺れる。

 朔は言った。
「……気付いた時には、遥を好きになっていた。」

 
 朔の言葉が深く、私の中に入り込む。
 染み込んで広がって、私の体を熱くする。

 それでも。
 一歩を踏み出す勇気は、私にはまだ無い。


  ————————————


 駅前の喫茶店。

 扉の前に着くと、握っていた手が離れる。
「昼、サンドイッチとかでよかったか……?」
 
 そういえばお昼ご飯を食べていなかった。
 すっかり忘れてた。

「いいよ!お昼のこと忘れてた」
「ここでいいか?」
「うん!」
 
 レトロな雰囲気の扉を開ける。同時にカランカランと鐘の音が店内に響く。
 客席は比較的空いていて、過ごしやすそうだった。
 入るとすぐに女性の店員が私たちに声をかける。
 
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「2名です」
「あちらの席にどうぞ」
 年配の女性に促され、窓際の2人席のテーブルに座る。
 少し硬めのソファーからは喫茶店の温もりも感じた。
 
「お決まりになりましたらベルでお呼びください。」
 女性店員はテーブルを離れる。
 何にしようかとメニューを見る。
 ふと目の前の朔が、メニューを選ぶ姿に目が離せなくなった。

「……そんなに見るな」

 ハッとなり、メニューで顔を隠す。
「ごめん!つい……」
「……」
「……」

 短い沈黙。

「決まったか?」
「ま、まだ!」

 普通に過ごすなんて無理だった。さっきの出来事が頭をよぎる。
 考えないようにと思っているのに、無意識に思い出してしまう。
 朔の視線を避けるように、メニューを立てる。

 避けるように顔を隠しているとメニュー表越しに声が聞こえた。

「さっきの、冗談じゃないからな。」
 
 朔は私に念を押す。
 
「……うん。」
 わかってる。朔は本気だ。
 
 次の瞬間。目の前にあったはずのメニューが朔によって退かされる。

「遥が目を逸らしても、俺は見るけどな」

 メニュー表の向こうから現れた朔はじっと私を見つめて離さない。
 いつもと違う攻撃的な姿に胸が高鳴り、動揺する。
「さ、さく?!なんかいつもと違うよ!?」

 いつもの朔からは想像できない積極性に、私の心臓の音がテーブル越しに聞こえてしまいそうだった。
 
「……俺にもよくわからん。けど、遥の反応は本当面白いな」

 
 いつにも増して楽しそうに笑う朔は、少しイジワルに見えた。