『恋愛ってなんですか?』

 (漫画の中から飛び出して来たようなイケメンって、本当に存在するんだなー)

 今度は聞き逃さないよう、先生の話を聞きながら心の中で一人呟く。
 そんな人が私の隣の席に来るなんて。一般女子なら嬉しくて泣くかもしれない。
 クラスメイト達の羨ましい視線が体に刺さるように痛い。それにしても、隣のクラスに芸能人みたいな顔の人間がいるなんて。由乃の彼氏も整った顔をしていたし。隣のクラスだった男子たちの顔面偏差値の高さに驚く。
 気にするどころか、そんな人達がいた事にすら気付いてなかった。
 先生は教壇に立ってクラスを見渡す。「よし」と言ってそのまま話し始めた。
 
「知ってるやつもいるだろうが、知らないやつもいるだろう。とりあえず自己紹介から始めるか、窓側の前から二列ずつ、男女交互で自己紹介な。じゃ浅田から――」
 
 私の座る列から順番に自己紹介が始まる。一人づつ、名前と一言を順番に言っていく。
 新しいクラスメイトもいる空間で、立って挨拶することに若干緊張しながら待っていると、ついに自分の番がやってきた。

「佐藤遥です。よろしくお願いします。」

 心の中で練習していた前の人と同じ、当たり障りの無い言葉。自己紹介といったらこれしか思いつかなかった。
 パチパチパチと遠慮がちな拍手が教室のあちこちで聞こえる。
 自分の番は終わった。私はホッと胸を撫で下ろす。
 次は……隣の席の……。

「佐伯朔です。よろしくお願いします。」

 心なしかさっきより拍手が、特に女子生徒の拍手が、大きい気がした。これが好感度の差。
 女心は素直だなぁと改めて思った。
 
(んー……ん?佐伯?)
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 自己紹介はつつがなく終わった。
 一人一人の自己紹介は人数がいたこともあり、意外と時間が掛かったので全員終える頃には休み時間。
「朔。ちゃんとはるちゃんに挨拶しろよ〜由乃の友達だぞー」
「それ、俺には関係ないだろ」
「そういうのいいから。ただでさえお前愛想がないんだから。友達増えないぞ。」
「なんで増やす前提なんだよ」

 なぜか拓真くんは私と佐伯くんを友達にしたいようで、迷惑そうにしている佐伯くんの背中を強めに突いていた。そして、私に謝り始める。
「ごめんねーはるちゃん。こいつ人見知りで。見た目はこんっなに!イケメンなのに、コミュ力はゼロなんだよ〜。せっかく隣の席なんだから、挨拶くらいすれば良いのに」
「さっき全体でやっただろ」
「あははは……」
 
(佐伯くんに同意見です……)

 こういう時の反応ってどうするべきなのか、シンプルに困る。
 いつの間にか、由乃の彼氏に「はるちゃん」呼びされていた。打ち解けるのが早過ぎる。コミュニケーション能力の高さが凄い。
 そんな彼氏の言葉に共感したのか、由乃まで挨拶を推奨する。

「お隣同士だし、折角だから挨拶くらいしたらいいんじゃないかなぁ?」

 「うふふ」と穏やかに、由乃が横から余計なことを言う。
 あれ、これなんか面白がられてる気がする。私は察した。由乃はそういう節がある。
 (どういうつもり……)と目で訴える私を横目で見ても、由乃はそれすら楽しそうに「うふふ」と微笑んでいる。
 拓真くんもそんな由乃の様子を察したようで、再度佐伯くんに「ほら、由乃もこう言ってるし」と挨拶を促す。
 このカップル、何がしたいんだ。
 ここで挨拶しなかったらめちゃくちゃ私が嫌がってるみたいになってしまう。
 
 私は仕方なく、挨拶する覚悟を決めて隣人に顔を向ける。すると彼もしつこい催促に諦めたのか、こちらに顔を向けてお互い顔を見合わせる。
「さ……佐藤遥です」
「佐伯朔。宜しく」
「よろしくお願いします…………」
 
 やっぱり何か名前が頭に引っ掛かる。
 
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 休み時間の終了を告げる鐘が鳴った。
 クラス全員が席に着くのを見ると先生が喋り始める。

「全員席についたな。とりあえず今からはクラス委員決めてくぞー」
 ――ザッッ!
 何かを察したのか皆一様に先生から視線を外す中、私は佐伯くんの名前が引っ掛かり、頭の記憶を掘り返していた。視線だけは、ボーッと前の黒板を眺める。

「最初はクラスの委員長と副委員長を決めなきゃいけないんだが。そんなめんどくさいもん、やりたいやつ……いるわけないよなぁー……あ。」
「あ?」

 先生と視線がぴったり合う。
 嫌な予感がした。
 悪いことを思いついたのか、口角をニヤニヤと上げ、あくどい笑みで私を見つめてくる。
 あれは絶対悪いこと考えてる顔だ!
 急いで視線を外すがもう遅い。
 今思いついた様に、爽やかな笑顔で先生は口を動かす。

「進学科。クラスも一つになった訳だし、折角だから、それを代表する学年一位と二位にやってもらおうか」
 
 そうしようそうしよう、と手のひらを重ね合わせる。
(それっぽい理由付けて!ただめんどくさいから早く決めたいだけでしょ!)
 最悪の流れが現実になってしまった。

「よし、佐伯、佐藤。委員長と副委員長宜しくな。別にどっちが委員長でも副委員長でもいいから」
 あとは適当に決めてくれ、と手を軽く振る先生。

「まじっすか」
「ちょうど隣の席で話しやすいだろ?早速、仲が深められてよかったな。この後の進行も頼むぞ」
 先生のやることは終わったらしく、そのまま教壇横のデスクに腰掛けた。
 
(ま、丸投げすぎる……)
 
 でも、これでわかった。
 佐伯ってなんか覚えのある名前だなと思った。いつも私の学年順位の上にいたから、テストの度、目に入って覚えてしまった。その人が隣の席に来るとは思わなかったけど。
 ……あぁ……私が目を合わせてしまったがばかりに、彼も巻き添えを……。
 でも何より、バイトの時間が……バイトの時間が削られる!
 叫びたい気持ちを抑えつつ、しぶしぶと前へと出る。
 佐伯くんも席を立ち、黒板前へと出てきた。
 まず、どっちが委員長やるか決めなければならない。
 正直、委員長だけはやりたく無い。目立ちたくない。めんどくさい事やりたくない。
 私は必死に逃げる方法を考える。確率は三分の一だけど、この方法が一番平等だよね。

「佐伯くん、じゃんけんしようか」
「じゃんけん?」
「そう、勝った方が委員長。男気じゃんけん!」
 負けるわけにはいかない。指をほぐして気合を込める。腕を絡めて握り、その隙間の形からどの手を出すか考えた。
 私の動きは意外だったのか、彼は一瞬目を丸くしてクスッと軽く微笑む。

(おぉ、笑った)
 私に見られたのがわかると、佐伯くんはすぐに微笑みを隠し、顔を戻す。
「いいよ」
「よーし、やっぱ無しとかないからね!」
 負けられない……!委員長は絶対嫌だ!
 そう意気込み、唱える。

「男気じゃんけん じゃんけんポンッ!」

 ……誰だよ、勝った方が勝ちの男気じゃんけんにしよう、なんて言ったやつ。
 学年二位、クラス委員長の誕生だった。