千雅が同じマンションに引っ越してきた事実を知った後、私はドーナツを食べるという名目で、二人を家に誘ってみた。
断られるかも、と思ったけど「今日は時間があるから」と受け入れてもらえた。
私はキッチンで飲み物を注ぎ、ダイニングの明るい木目調テーブルに運ぶ。
「朔はカフェオレ、千雅はコーヒーでよかったよね?」
「うん、ありがとう遥」
「サンキュー」
机の上に食器とフォークを並べ、バイト先から持ってきたドーナツボックスを開ける。
クリーム系にもっちり系、ふわふわ系にずっしり系……パイ、マフィン。
一人で食べるにはあまりに量が多いドーナツに、朔と千雅は箱の中を見て黙った。
私が全部買ったと思われてる?
「ち、違うから!店長がこの前テスト期間なのに入ってもらっちゃったからお礼にって買ってくれただけだから!」
「そ、そうだよね!」
「……それにしても凄い量だな」
「私は弟とほとんど二人暮らしで、弟はそんな甘いもの食べないし……だから一緒に食べてもらえると助かる」
「喜んで頂くよ。その黄色のクランチついたやつ、食べても良いかな?」
「うん!朔はもっちリング?」
「頼む」
「おっけー。私はマフィンにしようかな」
各々のドーナツを取り分け、お皿に置いて配る。
そういえば……。
「千雅はいつ引っ越してきたの?」
「今日引っ越してきたばっかりなんだ」
「そうなんだ!同じマンションに友達が二人も住んでるなんて不思議な感じ」
「ははっ本当だね。遥だけじゃなくて朔までいるのは驚いたなぁ」
「わかる!私も朔と同じマンションって気づいた時驚いたもん。……千雅は……クランチのドーナツが一番好きなの?」
「うん、そうだね。このクランチが――」
……聞こうと思ったけど、やめた。
久しぶりに千雅と話すことができた、今はそれだけで嬉しい。
――――――――――――
あんなに明るかった外も、気付けば薄暗くなり始めていた。
千雅は窓の外を見て席を立つ。
「ごめん、僕そろそろ帰るね」
「あ、玄関まで送る!朔はどうする?」
「待ってる」
千雅と私はキッチンの横を通り過ぎ、廊下を歩く。玄関に置かれた靴を履く千雅。
「遥、誘ってくれてありがとう」
「こちらこそ、食べてくれてありがとう」
千雅の背中を見て思う。このまま行かせてしまったら、千雅が自分のことを私に話すことはもうないかもしれない。
さっき聞くことをやめたのに。このまま千雅を送り出したら、また話せなくなるかもしれない。私は怖くなった。
千雅との距離が開いていくことが、怖くなった。
「……ねぇ千雅。昔みたいに私になんでもは相談しにくいかもしれないけど、いつでも頼っていいんだからね。頼りないかもしれないけど。私は千雅を家族みたいに、大切に思ってるよ。」
私の言葉に千雅は少し眉を下げ、悲しそうにも、嬉しそうにも見える表情をした。
「……遥」
千雅の顔が私に近付き、耳元で囁く。
「明日の夜、会いたい」
「うん。わかった」
「……また連絡するね」
私の返事を聞くと、千雅は優しく微笑んだ。
「ドーナツ、ご馳走様」とそのまま玄関を出て行った。
千雅を見送り、朔の元へと戻る。
「……。」
「大丈夫だろ」
「え?私まだ何にも」
「千雅のことだろ?」
「……うん」
「遥が、話聞いてやるんだろ?」
「……うん。」
「なら、大丈夫だろ」
そう言って朔は目を少し逸らす。
「そう……なのかな?」
「あぁ。」
朔は何か考えているような、思っているような。そんな表情。
私はそれ以上考えるのをやめた。
自分の席に座り、食べかけだったマフィンを口に放り込む。
「ドーナツ、美味しいね!」
「そうだな」
「んー次はこのハニチュロ食べようかなー」
「……。」
「……朔、食べたかったなら言いなよ」
「……別に」
「嘘。顔に食べたかった、って書いてあるよ」
「……。」
「あ、目逸らした!あはは!私はいつでも食べられるからあげるよ!温めた方が美味しいけど、どうする?」
朔との会話が、私を笑顔にしてくれた。
断られるかも、と思ったけど「今日は時間があるから」と受け入れてもらえた。
私はキッチンで飲み物を注ぎ、ダイニングの明るい木目調テーブルに運ぶ。
「朔はカフェオレ、千雅はコーヒーでよかったよね?」
「うん、ありがとう遥」
「サンキュー」
机の上に食器とフォークを並べ、バイト先から持ってきたドーナツボックスを開ける。
クリーム系にもっちり系、ふわふわ系にずっしり系……パイ、マフィン。
一人で食べるにはあまりに量が多いドーナツに、朔と千雅は箱の中を見て黙った。
私が全部買ったと思われてる?
「ち、違うから!店長がこの前テスト期間なのに入ってもらっちゃったからお礼にって買ってくれただけだから!」
「そ、そうだよね!」
「……それにしても凄い量だな」
「私は弟とほとんど二人暮らしで、弟はそんな甘いもの食べないし……だから一緒に食べてもらえると助かる」
「喜んで頂くよ。その黄色のクランチついたやつ、食べても良いかな?」
「うん!朔はもっちリング?」
「頼む」
「おっけー。私はマフィンにしようかな」
各々のドーナツを取り分け、お皿に置いて配る。
そういえば……。
「千雅はいつ引っ越してきたの?」
「今日引っ越してきたばっかりなんだ」
「そうなんだ!同じマンションに友達が二人も住んでるなんて不思議な感じ」
「ははっ本当だね。遥だけじゃなくて朔までいるのは驚いたなぁ」
「わかる!私も朔と同じマンションって気づいた時驚いたもん。……千雅は……クランチのドーナツが一番好きなの?」
「うん、そうだね。このクランチが――」
……聞こうと思ったけど、やめた。
久しぶりに千雅と話すことができた、今はそれだけで嬉しい。
――――――――――――
あんなに明るかった外も、気付けば薄暗くなり始めていた。
千雅は窓の外を見て席を立つ。
「ごめん、僕そろそろ帰るね」
「あ、玄関まで送る!朔はどうする?」
「待ってる」
千雅と私はキッチンの横を通り過ぎ、廊下を歩く。玄関に置かれた靴を履く千雅。
「遥、誘ってくれてありがとう」
「こちらこそ、食べてくれてありがとう」
千雅の背中を見て思う。このまま行かせてしまったら、千雅が自分のことを私に話すことはもうないかもしれない。
さっき聞くことをやめたのに。このまま千雅を送り出したら、また話せなくなるかもしれない。私は怖くなった。
千雅との距離が開いていくことが、怖くなった。
「……ねぇ千雅。昔みたいに私になんでもは相談しにくいかもしれないけど、いつでも頼っていいんだからね。頼りないかもしれないけど。私は千雅を家族みたいに、大切に思ってるよ。」
私の言葉に千雅は少し眉を下げ、悲しそうにも、嬉しそうにも見える表情をした。
「……遥」
千雅の顔が私に近付き、耳元で囁く。
「明日の夜、会いたい」
「うん。わかった」
「……また連絡するね」
私の返事を聞くと、千雅は優しく微笑んだ。
「ドーナツ、ご馳走様」とそのまま玄関を出て行った。
千雅を見送り、朔の元へと戻る。
「……。」
「大丈夫だろ」
「え?私まだ何にも」
「千雅のことだろ?」
「……うん」
「遥が、話聞いてやるんだろ?」
「……うん。」
「なら、大丈夫だろ」
そう言って朔は目を少し逸らす。
「そう……なのかな?」
「あぁ。」
朔は何か考えているような、思っているような。そんな表情。
私はそれ以上考えるのをやめた。
自分の席に座り、食べかけだったマフィンを口に放り込む。
「ドーナツ、美味しいね!」
「そうだな」
「んー次はこのハニチュロ食べようかなー」
「……。」
「……朔、食べたかったなら言いなよ」
「……別に」
「嘘。顔に食べたかった、って書いてあるよ」
「……。」
「あ、目逸らした!あはは!私はいつでも食べられるからあげるよ!温めた方が美味しいけど、どうする?」
朔との会話が、私を笑顔にしてくれた。


