朔は人混みを気にしながら、遥の半歩前を歩く。
手を引くことも、肩を抱くこともない。でも、ぶつからないように、さりげなく道をつくってくれている。
「朔、来てくれてありがとう」
優しく守ってくれている朔の背中に呟く。
「いや……急に来られなくなって悪かった」
朔は申し訳なさそうに、視線を下に向ける。私は急いで朔と足並みを合わせて歩く。
「大丈夫だよ!千雅と色々屋台とかも食べて回って、花火も綺麗で……朔が一緒に回れたらそれが1番だったけど、何か用があったんでしょ?」
「……そうだな……。その……」
朔は次の言葉を考えているのか、眉間に皺を寄せて難しい顔だ。
「無理に話さなくてもいいよ?」
「……笑わないで聞いてくれるか?」
「うん」
「……親父がいま、帰ってきてるんだが……一緒に行きたいと言って聞かなくてな……」
「へ?」
予想もしない理由に、気の抜けた声が出てしまう。
「……いや……本当におかしな話……なんだが……」
朔は額に手を当てて、悩ましげに俯く。
「それで、どうしたの?」
「足にへばりついて、意地でも一緒に行こうとするから……動けなくて。その後、帰ってきた母さんが引き剥がしてやっと来られたんだ」
想像するだけでも面白すぎる。
朔のお父さんにちょっと会いたくなってしまった。
「そっか……!たいへんだったね!」
面白すぎる。
「……遥、笑いそうなのを堪えてるのが分かるぞ」
耐えられなかった。想像して笑ってしまう。
「いやだって、そんな事あるんだって面白くて……あはは!本当ごめん!朔のお父さんに会ってみたくなっちゃった」
「……ただの子離れできてない、変なオヤジだぞ…」
「そうだけど!あはは!足にへばりついてまで息子の夏祭りに行こうとするなんて、朔の事が大好きなんだね」
「おまえなぁ……」
「ごめんごめん!」
朔は嫌そうな顔をしているが、本気でお父さんのことが嫌なわけではなさそうだった。
足にへばりついた時は流石に嫌だったかもしれないけど。
自分のことを話す朔は新鮮だ。家族のことを話す朔は、いつもより表情豊かに見える。
「いつか会えるかなぁ?朔のお父さん」
「会わなくていい」
「えー?」
朔といると何もかもが素敵に見えて。朔と話すのは何よりも楽しくて。
急いで歩いていないはずなのに、時間が過ぎるのはとても早くて。
気づいたらマンションに着いていた。
エントランスを通り、エレベーターを待つ。
私は2階、朔は5階。
夜なのもあって、マンション内はとても静かだった。
さっきまで弾んでいた会話が止まる。
まだ帰りたくない。なんて思ってしまうのは、夏祭りの余韻か、夜の空気のせいなのか。
そんな気持ちは知らないとでもいうように、エレベーターの扉は開く。朔と乗り込み、2階と5階を押した。
1階から2階。すぐに着いてしまう。
心ではため息を吐き、顔は平静を装う。
「朔、送ってくれてありがとう。……また学校でね」
「あぁ。」
名残惜しい気持ちを残し、エレベーターを降りた。残った朔に手を振ってエレベーターが見えなくなるまで見送り、マンションの廊下を歩く。
「…………」
さっきまでそばにあった空気を思い出し、少しだけ寂しくなった。
夏祭りがあまりにも楽しくて。今日が終わる、それが勿体無く感じる。初めての感覚に心が落ち着かない。
私は家の鍵を探すために巾着を開け、手をいれる。鍵……。
探っていると、誰かが廊下を走っている音が聞こえた。
「遥!」
「え!朔?!どうしたの?」
廊下を走り、階段から駆け降りてきたのは朔だった。
「もう少しだけ!……時間あるか?」
急いで来たせいなのか、朔の頬は赤かった。
話忘れたことがあるのか、何か用があるのか。
どんな理由でも、まだ朔と一緒にいられる事が嬉しいと思った。
「時間あるよ!」
朔と私は、マンションの入り口にある小さな憩いスペースのベンチに座って、2人で遅くまで話し続けた。
話しても、話しても会話は尽きなくて、この時間が出来るだけ長く続く事を願う。
そこで吸った夏の空気は、朔とは見られなかった花火の匂いがした。
そんな気がした。
手を引くことも、肩を抱くこともない。でも、ぶつからないように、さりげなく道をつくってくれている。
「朔、来てくれてありがとう」
優しく守ってくれている朔の背中に呟く。
「いや……急に来られなくなって悪かった」
朔は申し訳なさそうに、視線を下に向ける。私は急いで朔と足並みを合わせて歩く。
「大丈夫だよ!千雅と色々屋台とかも食べて回って、花火も綺麗で……朔が一緒に回れたらそれが1番だったけど、何か用があったんでしょ?」
「……そうだな……。その……」
朔は次の言葉を考えているのか、眉間に皺を寄せて難しい顔だ。
「無理に話さなくてもいいよ?」
「……笑わないで聞いてくれるか?」
「うん」
「……親父がいま、帰ってきてるんだが……一緒に行きたいと言って聞かなくてな……」
「へ?」
予想もしない理由に、気の抜けた声が出てしまう。
「……いや……本当におかしな話……なんだが……」
朔は額に手を当てて、悩ましげに俯く。
「それで、どうしたの?」
「足にへばりついて、意地でも一緒に行こうとするから……動けなくて。その後、帰ってきた母さんが引き剥がしてやっと来られたんだ」
想像するだけでも面白すぎる。
朔のお父さんにちょっと会いたくなってしまった。
「そっか……!たいへんだったね!」
面白すぎる。
「……遥、笑いそうなのを堪えてるのが分かるぞ」
耐えられなかった。想像して笑ってしまう。
「いやだって、そんな事あるんだって面白くて……あはは!本当ごめん!朔のお父さんに会ってみたくなっちゃった」
「……ただの子離れできてない、変なオヤジだぞ…」
「そうだけど!あはは!足にへばりついてまで息子の夏祭りに行こうとするなんて、朔の事が大好きなんだね」
「おまえなぁ……」
「ごめんごめん!」
朔は嫌そうな顔をしているが、本気でお父さんのことが嫌なわけではなさそうだった。
足にへばりついた時は流石に嫌だったかもしれないけど。
自分のことを話す朔は新鮮だ。家族のことを話す朔は、いつもより表情豊かに見える。
「いつか会えるかなぁ?朔のお父さん」
「会わなくていい」
「えー?」
朔といると何もかもが素敵に見えて。朔と話すのは何よりも楽しくて。
急いで歩いていないはずなのに、時間が過ぎるのはとても早くて。
気づいたらマンションに着いていた。
エントランスを通り、エレベーターを待つ。
私は2階、朔は5階。
夜なのもあって、マンション内はとても静かだった。
さっきまで弾んでいた会話が止まる。
まだ帰りたくない。なんて思ってしまうのは、夏祭りの余韻か、夜の空気のせいなのか。
そんな気持ちは知らないとでもいうように、エレベーターの扉は開く。朔と乗り込み、2階と5階を押した。
1階から2階。すぐに着いてしまう。
心ではため息を吐き、顔は平静を装う。
「朔、送ってくれてありがとう。……また学校でね」
「あぁ。」
名残惜しい気持ちを残し、エレベーターを降りた。残った朔に手を振ってエレベーターが見えなくなるまで見送り、マンションの廊下を歩く。
「…………」
さっきまでそばにあった空気を思い出し、少しだけ寂しくなった。
夏祭りがあまりにも楽しくて。今日が終わる、それが勿体無く感じる。初めての感覚に心が落ち着かない。
私は家の鍵を探すために巾着を開け、手をいれる。鍵……。
探っていると、誰かが廊下を走っている音が聞こえた。
「遥!」
「え!朔?!どうしたの?」
廊下を走り、階段から駆け降りてきたのは朔だった。
「もう少しだけ!……時間あるか?」
急いで来たせいなのか、朔の頬は赤かった。
話忘れたことがあるのか、何か用があるのか。
どんな理由でも、まだ朔と一緒にいられる事が嬉しいと思った。
「時間あるよ!」
朔と私は、マンションの入り口にある小さな憩いスペースのベンチに座って、2人で遅くまで話し続けた。
話しても、話しても会話は尽きなくて、この時間が出来るだけ長く続く事を願う。
そこで吸った夏の空気は、朔とは見られなかった花火の匂いがした。
そんな気がした。


