家の近くの停留所からバスに乗り、近くのショッピングセンターへと向かう。
バスを待っている間は日差しが暑くて溶けてしまいそうだったが、今はもうバスの中。とても快適だ。
空調から出る冷風が、私の気持ちまで爽やかにしてくれる。
スマホを見ながらバスに揺られていると、三十分程度で目的地の近くに到着した。
バスを降りて少し歩く。すると、全館空調の効いた素敵な空間、目的のショッピングモールが現れた。
急ぐ気持ちが私の歩幅を大きくする。暑い。早く中に入りたい。
館内は夏休みだからか、平日という割にモール内は混雑していた。
若い男女や小さな子供、それに付き添う母親など、それぞれ買い物を楽しんでいる。私は目的である浴衣を探しに、館内を歩き回ることにした。
「……うーん」
なんか違う。
[夏祭りセール!]とPOPに書かれたコーナ。一枚一枚ハンガーを横にずらして浴衣を吟味する。が、自分の気に入る柄は見つからない。ここにくるまでに他のショップも回って見ているが、どれもしっくりこない。
希望を賭けて、最後一列のハンガーを流す。
「俺はその浴衣もいいと思うぞー」
「!?」
急にタピオカに声をかけられ、驚き飛び跳ねる。
「えっ!モッチー?!何してんのここで!」
タピオカの後ろから現れた声の正体は、担任の望月先生だった。
「よぉ。タピオカ飲みに来たら佐藤を見つけたからな。眉間に皺寄せながら悩んでたみたいだから手伝ってやろう。」
「夏休みとはいえど、平日の午後に教師がなに優雅にタピオカ飲んでるんですか。ていうかタピオカデッカ!」
「有給は基本的にはみんなのものだ。ちなみにタピオカはメガビックサイズだ。」
「タピオカ飲むために有給取ったんですか……」
「有給使わないと消えてくからなぁ……」
望月先生の顔は悲壮感に満ちている。社会人って大変なんだなぁ。
「ていうかモッチー、絶対暇だったから声かけたんでしょ」
望月先生の動きがコミカルにわかりやすく止まる。図星だ。
「んなことはいいんだよ。で、佐藤は浴衣決まったのか?」
「最初から一緒に居たみたいな雰囲気で言わないでください。」
「いたぞ?最初から」
「怖っ!」
漫才コンビかのように、望月先生との会話はテンポよく進む。
まさか夏休みに自分の担任と会う事になろうとは……。
でも実際一人で悩んで困っていた。せっかくだから頼る事にしよう。
「浴衣いいのなくて。正確には見すぎてどれがいいのか分からくなっちゃって。古風なのが良いけど、古風過ぎないのが良いんですよね」
「構ってほしいけど構ってほしくないみたいなこと言うんだな?」
「どこをどう解釈したらそうなるんです?」
「すまん、ストローに溜まったタピオカに夢中でよく聞いてなかった。」
「もうそこの椅子でタピオカ吸って大人しくしててください」
担任に呆れ、深く息を吐きながらハンガーを流す。もう最後の4枚。希望は薄い。
「……あ、これ可愛いかも」
深い青緑の地に、赤や白の花が咲いている。落ち着いているのに、ちゃんと華やかで。子どもっぽくないのに、どこか可愛らしい。
望月先生に絡まれてしっかりと浴衣を見られていなかったが、最後のハンガーにかかっていたこの浴衣に心が惹かれた。
「モッチー、私これにする」
「ん?お、良いじゃねーか。お前の赤っぽい髪も映えそうで」
自分の選んだものを肯定してもらえて、嬉しかった。
一人で見ていたら、やっぱりもう少し見てから……とか考えていたかもしれない。
「じゃあ買ってくる!」
「おー」
――――――――――――
買い物袋を腕に掛け、望月先生とモール内を歩き回る。
誰かに会ったら誤解しか生まれない気がするので、そんな事は起きないと心の底から願いたい。
「えっ遥?!」
……今願ったばっかりなんですが。
驚いた顔でこちらを見つめていたのは、葵だった。葵は興奮した様子でこちらに走ってくる。
「遥とモッチー何してんの?!まさか……!」
「違う違う違う違う」
私は絶対にあってはならない誤解を必死に解いた。
「捕まる捕まる捕まる捕まる」
流石の先生も全力で否定していた。その様子を見て「だよね〜流石にないか」と笑う葵。
「ていうか二人で何してるの?」
「いや、浴衣見てたら横からタピオカが。」
「ちょっと待って、全然わかんないんだけど」
葵は本気で分からない顔をしていた。そりゃそうだ。言ってる私も意味がわからない。
「浴衣見てたら横からタピってるモッチーがこんにちはしてた。」
「もっとわからんくなったわ。」
日本語って難しい。
葵に事情を説明すると「何その偶然、すごー。ていうかタピオカほんとデカッ」と驚いていた。
「いや、葵に会ったのにも驚いてるよ、私」
「今日はたまたま家族で出掛けてて。暑いからショッピングモールにしよってなったの」
「親御さんに遭遇することがなくて本当によかったです」
望月先生の額に汗が滲む。
〜♫
葵のスマホから着信音が鳴った。一緒にきた家族からのようだ。葵は電話に短く返事をして、すぐに切る。
「ごめん、私そろそろ行かなきゃ!また夏祭りでねー!」
「うん!」
元気良く手を振りながら、葵は足早に家族の元に戻っていった。
もうやる事もないし、帰宅を考えるが、行きの外の暑さを思い出して億劫になる。
「……ねぇモッチー、ここまで何で来たの?」
「あ?車に決まってるだろ。大人だからな」
「家まで送って」
「先生を足に使うな。」
そう簡単には行かないか。だが、私には秘策があった。
「ここにバイト先でもらったコンビニのコーヒーチケット(カフェオレ可)が一冊あるんですがね」
「よーし、外は暑いし。先生は優しいからな!家まで送ってってやろう!」
私は誤解されないように少し距離を保ちつつ、駐車場へ向かう先生の後ろをついて歩く。心なしか、望月先生の歩幅が大きい。
うちの担任は、今日も平和だ。
バスを待っている間は日差しが暑くて溶けてしまいそうだったが、今はもうバスの中。とても快適だ。
空調から出る冷風が、私の気持ちまで爽やかにしてくれる。
スマホを見ながらバスに揺られていると、三十分程度で目的地の近くに到着した。
バスを降りて少し歩く。すると、全館空調の効いた素敵な空間、目的のショッピングモールが現れた。
急ぐ気持ちが私の歩幅を大きくする。暑い。早く中に入りたい。
館内は夏休みだからか、平日という割にモール内は混雑していた。
若い男女や小さな子供、それに付き添う母親など、それぞれ買い物を楽しんでいる。私は目的である浴衣を探しに、館内を歩き回ることにした。
「……うーん」
なんか違う。
[夏祭りセール!]とPOPに書かれたコーナ。一枚一枚ハンガーを横にずらして浴衣を吟味する。が、自分の気に入る柄は見つからない。ここにくるまでに他のショップも回って見ているが、どれもしっくりこない。
希望を賭けて、最後一列のハンガーを流す。
「俺はその浴衣もいいと思うぞー」
「!?」
急にタピオカに声をかけられ、驚き飛び跳ねる。
「えっ!モッチー?!何してんのここで!」
タピオカの後ろから現れた声の正体は、担任の望月先生だった。
「よぉ。タピオカ飲みに来たら佐藤を見つけたからな。眉間に皺寄せながら悩んでたみたいだから手伝ってやろう。」
「夏休みとはいえど、平日の午後に教師がなに優雅にタピオカ飲んでるんですか。ていうかタピオカデッカ!」
「有給は基本的にはみんなのものだ。ちなみにタピオカはメガビックサイズだ。」
「タピオカ飲むために有給取ったんですか……」
「有給使わないと消えてくからなぁ……」
望月先生の顔は悲壮感に満ちている。社会人って大変なんだなぁ。
「ていうかモッチー、絶対暇だったから声かけたんでしょ」
望月先生の動きがコミカルにわかりやすく止まる。図星だ。
「んなことはいいんだよ。で、佐藤は浴衣決まったのか?」
「最初から一緒に居たみたいな雰囲気で言わないでください。」
「いたぞ?最初から」
「怖っ!」
漫才コンビかのように、望月先生との会話はテンポよく進む。
まさか夏休みに自分の担任と会う事になろうとは……。
でも実際一人で悩んで困っていた。せっかくだから頼る事にしよう。
「浴衣いいのなくて。正確には見すぎてどれがいいのか分からくなっちゃって。古風なのが良いけど、古風過ぎないのが良いんですよね」
「構ってほしいけど構ってほしくないみたいなこと言うんだな?」
「どこをどう解釈したらそうなるんです?」
「すまん、ストローに溜まったタピオカに夢中でよく聞いてなかった。」
「もうそこの椅子でタピオカ吸って大人しくしててください」
担任に呆れ、深く息を吐きながらハンガーを流す。もう最後の4枚。希望は薄い。
「……あ、これ可愛いかも」
深い青緑の地に、赤や白の花が咲いている。落ち着いているのに、ちゃんと華やかで。子どもっぽくないのに、どこか可愛らしい。
望月先生に絡まれてしっかりと浴衣を見られていなかったが、最後のハンガーにかかっていたこの浴衣に心が惹かれた。
「モッチー、私これにする」
「ん?お、良いじゃねーか。お前の赤っぽい髪も映えそうで」
自分の選んだものを肯定してもらえて、嬉しかった。
一人で見ていたら、やっぱりもう少し見てから……とか考えていたかもしれない。
「じゃあ買ってくる!」
「おー」
――――――――――――
買い物袋を腕に掛け、望月先生とモール内を歩き回る。
誰かに会ったら誤解しか生まれない気がするので、そんな事は起きないと心の底から願いたい。
「えっ遥?!」
……今願ったばっかりなんですが。
驚いた顔でこちらを見つめていたのは、葵だった。葵は興奮した様子でこちらに走ってくる。
「遥とモッチー何してんの?!まさか……!」
「違う違う違う違う」
私は絶対にあってはならない誤解を必死に解いた。
「捕まる捕まる捕まる捕まる」
流石の先生も全力で否定していた。その様子を見て「だよね〜流石にないか」と笑う葵。
「ていうか二人で何してるの?」
「いや、浴衣見てたら横からタピオカが。」
「ちょっと待って、全然わかんないんだけど」
葵は本気で分からない顔をしていた。そりゃそうだ。言ってる私も意味がわからない。
「浴衣見てたら横からタピってるモッチーがこんにちはしてた。」
「もっとわからんくなったわ。」
日本語って難しい。
葵に事情を説明すると「何その偶然、すごー。ていうかタピオカほんとデカッ」と驚いていた。
「いや、葵に会ったのにも驚いてるよ、私」
「今日はたまたま家族で出掛けてて。暑いからショッピングモールにしよってなったの」
「親御さんに遭遇することがなくて本当によかったです」
望月先生の額に汗が滲む。
〜♫
葵のスマホから着信音が鳴った。一緒にきた家族からのようだ。葵は電話に短く返事をして、すぐに切る。
「ごめん、私そろそろ行かなきゃ!また夏祭りでねー!」
「うん!」
元気良く手を振りながら、葵は足早に家族の元に戻っていった。
もうやる事もないし、帰宅を考えるが、行きの外の暑さを思い出して億劫になる。
「……ねぇモッチー、ここまで何で来たの?」
「あ?車に決まってるだろ。大人だからな」
「家まで送って」
「先生を足に使うな。」
そう簡単には行かないか。だが、私には秘策があった。
「ここにバイト先でもらったコンビニのコーヒーチケット(カフェオレ可)が一冊あるんですがね」
「よーし、外は暑いし。先生は優しいからな!家まで送ってってやろう!」
私は誤解されないように少し距離を保ちつつ、駐車場へ向かう先生の後ろをついて歩く。心なしか、望月先生の歩幅が大きい。
うちの担任は、今日も平和だ。


