あれから数週間が経った。
今日は体育祭。
正直、それどころじゃない事があったから私はすっかり忘れていた。もうすぐ体育祭だと思った時には数日を切っていて、気づけば当日になっていた。
すでに開会式は終わり、今はクラス対抗玉入れの時間だ。
「由乃ー!ほら、これ!行くぞー!」
「たくちゃん上手ぅ!私も頑張る〜!」
「えーい!」「あはは!」
ここは海辺か、と勘違いしてしまいそうなバカップルぶりを発揮しているのは由乃と拓真だった。
「おい、あいつらの周りだけ花舞ってるぞ……」
「幻覚か……?」
ほら、他のクラスでも話題になってる。全校生徒が目にする体育祭で、恥じることなくいつも通りでいる二人のメンタルが強すぎて、尊敬の念を抱かずにはいられない。
クラスの待機席に座って玉入れを見ていると、隣の葵が種目一覧を見ていた。
「えっと、朔くんは借り物競走とクラス代表リレー。千雅は借り物競走だけだっけ?」
「確かそう。なんか千雅もクラス代表リレー出たかったみたいだけど朔にタイムで負けたって拓真が言ってたよ」
「あーかっこいいとこ見せたかっただろうに、残念だねぇ〜」
「ん?誰に?」
「いや?まぁ?あはは〜」
葵が言葉を濁した気がする。
千雅、誰か気になる子でもいるのだろうか。私は何も聞いてないのに。まぁ、気が向いたらまた話してくれるかな。
「葵はクラス代表リレーの女子と障害物競争だっけ?」
「そっ!あと二つ後かなー。遥は?」
「応援担当、補欠です。」
「おぉ……頑張れ……」
葵と話している間に玉入れは終わり、次は朔と千雅の出る借り物競走が始まる。
「よーい……パァン!」
スタートを合図する銃声が響き渡り、クラスを代表する選手達が各々お題ボックスに走り出す。
朔と千雅も各々のお題ボックスに手を入れて紙を引き出す。
2人とも紙を開くと一度固まってしまう。
他のクラスの選手も固まっていたり、焦りながら何かを探していたりとこちらも見ていて面白い。
千雅も誰かを探し始めたようだ。
「……。」
朔は立ち止まり、何か考えていたがすぐに方向を定め、走り出す。
朔が千雅よりも一足先早く走り出すが、千雅も負けじと追いかけた。
「おーっと!2年進学科!物凄い勢いで同じ方向に走っていくぞ!その先には一体誰が!何があるのか!」
「ちょ……」
こちらに凄い勢いで2人が走って来ている。
――ドドドドドドドドドドドド
「何なに?!疑問よりまず恐怖が勝つんだけど?!」
2人はほとんど同時に到着だった。
「僕は遥を連れていくよ。僕のお題に沿うのは遥だけだから。」
「俺も遥じゃないとダメだ。」
「2年進学科!1人の女子を取り合いしているー!一体どんなお題だったのか!これはとても気になるぞー!」
放送部の実況で会場がヒュー!と盛り上がる。
そんな中、朔が強めの口調で千雅に言う。
「俺は遥じゃないとダメなんだ」
その場に静けさが訪れる。
「遥しか、俺のお題に合わない」
((((あ、そう言う意味ですか))))
言葉の正しい意味を理解して、全員の止まっていた時間が動き出す。
でもなぜか千雅だけは険しい顔をしたまま、唇を噛み締めていた。
犬と猫の如く、ガルルルと威嚇し合う2人に困った私は改めて聞く。
「2人とも私を連れて行きたいんだよね?」
朔と千雅はコクンッと大人しく頷いた。
なぜ私なの、とため息を吐きながら、私は提案する。
「じゃあ3人で行こう。」
誰も、その意味を理解していなかった。
――数秒後までは。
――――――――――――――――――――
クラスのはちまきを額に巻いた男子生徒が衝撃的なものを見たような顔で校庭を見つめていた。
「おい、今って借り物競走だよな……?」
「そうだけど、どうして?」
隣にいた女子生徒が投げかける。
「いや……あそこ……」
そこには千雅と朔の上に遥1人が跨って颯爽と駆ける姿があったのだった。
あんなに色めかしく盛り上がっていた場内実況も、突然の騎馬戦スタイルで対応に困っていた。
心無しか、千雅と朔の表情は死んでいたが、人生で一回くらい騎馬戦をやってみたかった遥は割と楽しそうであった。
――――――――――――――――――――
借り物競走も終わり、いよいよ最後の種目、クラス代表リレーが始まる。
私達のクラス代表は朔と葵。
二人の足の速さはクラス全員のお墨付きだ。
気合いを入れるかのように、葵は靴紐を結び直す。
朔も一見無表情に見えるが、リレーに向けて息を整えているようだった。
「あおちゃんも、朔くんも頑張れー」
「応援席から二人をずっと見つめてるぞ☆」
「キモ言い方すんなバカ拓真」
「葵ちゃんヒドいっ!」
掛け合いが面白くて、その場に笑みが溢れる。
ピーンポーンパーンポーン
「クラス代表リレーに参加する生徒は校庭、待機位置に集まってください――繰り返し連絡します。クラス代表リレーに――」
出番を知らせる出場選手集合のアナウンスが流れた。
「頑張ってね!怪我には気をつけて」
「任せろー!颯爽と優勝を掻っ攫ってやるわ!」
あっはっはと葵は腕を回し、待機列へと向かっていった。
運動をする時の葵は頼もしい。
「遥。」
「あれ、朔行かなくていいの?」
彼はその場に立って視線を斜めにずらしたまま、動かない。
「朔?」
「……いや、何でもない。」
朔は何かを言いかけるが、その先の言葉は聞けなかった。
その代わりなのか、私の横を過ぎる際に朔は私の頭に手を乗せ軽く撫でる。
「見てろ。」
そのまま私と目を合わせることなく、待機列へと駆けて行った。
「な、なに今の……」
全身の体温が上がり、自分の顔が熱くなっているのが嫌でもわかった。
こんな気持ち、私は知らない。
今日は体育祭。
正直、それどころじゃない事があったから私はすっかり忘れていた。もうすぐ体育祭だと思った時には数日を切っていて、気づけば当日になっていた。
すでに開会式は終わり、今はクラス対抗玉入れの時間だ。
「由乃ー!ほら、これ!行くぞー!」
「たくちゃん上手ぅ!私も頑張る〜!」
「えーい!」「あはは!」
ここは海辺か、と勘違いしてしまいそうなバカップルぶりを発揮しているのは由乃と拓真だった。
「おい、あいつらの周りだけ花舞ってるぞ……」
「幻覚か……?」
ほら、他のクラスでも話題になってる。全校生徒が目にする体育祭で、恥じることなくいつも通りでいる二人のメンタルが強すぎて、尊敬の念を抱かずにはいられない。
クラスの待機席に座って玉入れを見ていると、隣の葵が種目一覧を見ていた。
「えっと、朔くんは借り物競走とクラス代表リレー。千雅は借り物競走だけだっけ?」
「確かそう。なんか千雅もクラス代表リレー出たかったみたいだけど朔にタイムで負けたって拓真が言ってたよ」
「あーかっこいいとこ見せたかっただろうに、残念だねぇ〜」
「ん?誰に?」
「いや?まぁ?あはは〜」
葵が言葉を濁した気がする。
千雅、誰か気になる子でもいるのだろうか。私は何も聞いてないのに。まぁ、気が向いたらまた話してくれるかな。
「葵はクラス代表リレーの女子と障害物競争だっけ?」
「そっ!あと二つ後かなー。遥は?」
「応援担当、補欠です。」
「おぉ……頑張れ……」
葵と話している間に玉入れは終わり、次は朔と千雅の出る借り物競走が始まる。
「よーい……パァン!」
スタートを合図する銃声が響き渡り、クラスを代表する選手達が各々お題ボックスに走り出す。
朔と千雅も各々のお題ボックスに手を入れて紙を引き出す。
2人とも紙を開くと一度固まってしまう。
他のクラスの選手も固まっていたり、焦りながら何かを探していたりとこちらも見ていて面白い。
千雅も誰かを探し始めたようだ。
「……。」
朔は立ち止まり、何か考えていたがすぐに方向を定め、走り出す。
朔が千雅よりも一足先早く走り出すが、千雅も負けじと追いかけた。
「おーっと!2年進学科!物凄い勢いで同じ方向に走っていくぞ!その先には一体誰が!何があるのか!」
「ちょ……」
こちらに凄い勢いで2人が走って来ている。
――ドドドドドドドドドドドド
「何なに?!疑問よりまず恐怖が勝つんだけど?!」
2人はほとんど同時に到着だった。
「僕は遥を連れていくよ。僕のお題に沿うのは遥だけだから。」
「俺も遥じゃないとダメだ。」
「2年進学科!1人の女子を取り合いしているー!一体どんなお題だったのか!これはとても気になるぞー!」
放送部の実況で会場がヒュー!と盛り上がる。
そんな中、朔が強めの口調で千雅に言う。
「俺は遥じゃないとダメなんだ」
その場に静けさが訪れる。
「遥しか、俺のお題に合わない」
((((あ、そう言う意味ですか))))
言葉の正しい意味を理解して、全員の止まっていた時間が動き出す。
でもなぜか千雅だけは険しい顔をしたまま、唇を噛み締めていた。
犬と猫の如く、ガルルルと威嚇し合う2人に困った私は改めて聞く。
「2人とも私を連れて行きたいんだよね?」
朔と千雅はコクンッと大人しく頷いた。
なぜ私なの、とため息を吐きながら、私は提案する。
「じゃあ3人で行こう。」
誰も、その意味を理解していなかった。
――数秒後までは。
――――――――――――――――――――
クラスのはちまきを額に巻いた男子生徒が衝撃的なものを見たような顔で校庭を見つめていた。
「おい、今って借り物競走だよな……?」
「そうだけど、どうして?」
隣にいた女子生徒が投げかける。
「いや……あそこ……」
そこには千雅と朔の上に遥1人が跨って颯爽と駆ける姿があったのだった。
あんなに色めかしく盛り上がっていた場内実況も、突然の騎馬戦スタイルで対応に困っていた。
心無しか、千雅と朔の表情は死んでいたが、人生で一回くらい騎馬戦をやってみたかった遥は割と楽しそうであった。
――――――――――――――――――――
借り物競走も終わり、いよいよ最後の種目、クラス代表リレーが始まる。
私達のクラス代表は朔と葵。
二人の足の速さはクラス全員のお墨付きだ。
気合いを入れるかのように、葵は靴紐を結び直す。
朔も一見無表情に見えるが、リレーに向けて息を整えているようだった。
「あおちゃんも、朔くんも頑張れー」
「応援席から二人をずっと見つめてるぞ☆」
「キモ言い方すんなバカ拓真」
「葵ちゃんヒドいっ!」
掛け合いが面白くて、その場に笑みが溢れる。
ピーンポーンパーンポーン
「クラス代表リレーに参加する生徒は校庭、待機位置に集まってください――繰り返し連絡します。クラス代表リレーに――」
出番を知らせる出場選手集合のアナウンスが流れた。
「頑張ってね!怪我には気をつけて」
「任せろー!颯爽と優勝を掻っ攫ってやるわ!」
あっはっはと葵は腕を回し、待機列へと向かっていった。
運動をする時の葵は頼もしい。
「遥。」
「あれ、朔行かなくていいの?」
彼はその場に立って視線を斜めにずらしたまま、動かない。
「朔?」
「……いや、何でもない。」
朔は何かを言いかけるが、その先の言葉は聞けなかった。
その代わりなのか、私の横を過ぎる際に朔は私の頭に手を乗せ軽く撫でる。
「見てろ。」
そのまま私と目を合わせることなく、待機列へと駆けて行った。
「な、なに今の……」
全身の体温が上がり、自分の顔が熱くなっているのが嫌でもわかった。
こんな気持ち、私は知らない。


