『恋愛ってなんですか?』

みんなでご飯をした時から数日が経った。
 授業に集中しなきゃいけないのに、全く集中できない。
 お昼をみんなで食べて、職員室にノートを取りに行った後から。
 なんだか朔との間に壁を感じる気がする。

 あの日。
 職員室から戻るとなぜか空気がピリついてるような……簡単に言うと、あまりいい雰囲気ではなかった。
 いつもの騒がしいトリオは、何故か少し離れた状態で喋りながら朔と千雅を眺めているし。朔と千雅からは見えない火花さえ感じた。
 
 あれから、朔が少し……少し冷たく感じる。
 それがなんだか寂しい。
 今まで友達が離れて行ってもそんなもんか、くらいにしか思わなかったのに。
 私は自分で思っていた以上に、感情に敏感なのかもしれない。
「はーるちゃん。」
「拓真……」

 休み時間。
 ご飯も食べずに一人で座っていると拓真が隣の椅子に座ってくる。
「元気ないじゃん?朔のことでしょ」
 拓真にはお見通しだった。
「なんでか分かんないけど、冷たいというか……避けられてるような気がする……」
「おー不器用だなぁ」
「?」
「いや、こっちの話。それではるちゃんは?それが寂しい?」
「……理由も分からないのに急に避けられたら誰だって寂しいでしょ……」
「確かにねぇ」

 考えても自分が何をしてしまったのか分からない……。
 
「私何か怒らせることしちゃったのかな……」
 でもそれが何なのか、全くわからない。
 拓真は子供を慰めるみたいに優しく話す。
「はるちゃんは悪くないと思うよ。ただ……そうだな。朔なりに何かあって、自分の中で悩んでるだけだと思うから。はるちゃんはいつもと変わらず、朔と話してやったら良いと思うよ。」
「うん……。」

 拓真の言う通り、私が気にし過ぎたのかもしれない。
 朔にだって朔の事情があるよね。
 うん。
 そう思ったら少し元気が出てきた。

「なんか考えすぎてたかも。拓真ありがとう。」
「どういたしまして。じゃあ俺はアイツに……ちょっと用があるから、お昼ちゃんと食べなよ」
 手を振りながら私と別れ、拓真は誰かを探しに行ったようだった。

 ――――――――――――――――――――

「遥、途中まで一緒に帰ろう」
「千雅。今日も私でいいの?」
「うん!」

 転校生が来たニュースは進学科だけでなく、すぐに普通科にも広まった。
 高校生で転校生というのが珍しいのもあるが、千雅のルックスの良さも相まって大ニュースとなってしまった。
 つまり、既に朔に劣らぬ人気者である。
 そんな千雅に好意を抱いている女の子は少なくないようで、近寄りがたい朔に比べて基本的に会話はしてくれる千雅はお近付きになりやすいらしい。

 だから千雅と一緒に帰りたくて誘う女の子は沢山いる。
 が、それら全部をやんわりとお断りし、転校以来いつも私と帰っている。
 正直、これでいいのかわからない。
 このままじゃ千雅はずっと私から離れられなくなってしまう。
 それは千雅のためにも良くない気がする。
「……千雅、あのさ」
「遥、ちょっといいか。」
 
 朔だった。
 千雅は邪魔されたのが気に食わないのか、朔を睨む。
 でも朔はそんなこと気にしないらしく、話を続けた。

「少し二人で話したい。帰る前にちょっとだけいいか?」
「あ、うん。いいよ!千雅ごめん、少し待てる?あれなら先に帰ってもいいし」
「……わかった。じゃあ今日は先に帰ってるよ。また明日ね。」

 千雅の表情は、いつも通り優しい笑みなのに、その目だけは少しも笑っていなかった。
 朔と何かあったのかな。千雅は教室を出る為、朔の横を通りすぎる。

「遥は……なんか……から。」
 その時、千雅が何かを言ったように聞こえたが、何を言ったのかわからなかった。
 ただ、空気だけが一瞬、張り詰めた気がした。
 朔の顔は険しく曇る。
 
「朔……?」
「コーヒーでも飲むか?」
「あ、うん。じゃあすぐそこのコンビニで買って話す?」
「そうだな。」
 朔の口角が少し緩む。
 何だか久しぶりに、朔とちゃんと向き合ってる気がする。素直に嬉しい。

 私達は学校を出て近くのコンビニへと向かった。
 そこのコンビニのカフェオレは美味しくて。私のお気に入りだ。
 そのままコンビニの駐車場で朔を待つ。

「カフェオレのホットで良かったよな?」
 朔が「俺から誘ってるし、奢る。」とカフェオレをご馳走してくれた。
「うん、ありがとう。それで話って急にどうしたの?」
 
 朔は何と言っていいのか分からないように、一度唇を結び、視線を逸らす。
「……最近、冷たくしてしまっていたようで悪かった。そんなつもりは無かったんだが……今日、拓真に言われて、気付いた……」
 あの後、拓真は朔のところに行っていたんだと今気付く。
 朔、何かあったのかな……。あんまり詮索するのもよくないと思い、それ以上聞くのをやめる。
 こうやって話せただけで、自分の心が落ち着くのを感じた。

「そっか、私何かしちゃったのかなって不安だったから……安心したよ!」
 朔に気を遣わせないよう、気丈に振る舞う。
「遥は何もしてない。」
 朔の瞳は真っ直ぐと私を見つめていた。
 
「うん。はぁーなんか安心したらお腹空いてきちゃったかも!食べ物でも買ってこようかな!」
 コンビニに食べ物を買いに行こうと体を後ろに向けると、誰かとぶつかってしまった。
 結構な強さでぶつかったからか、鼻先に痛みを感じる。

「ゔっ」
「よー。青春してんなぁお前ら。」

 勢い良く衝突した相手は、担任の望月先生だった。
「も゛っぢーじゃん゛……なんでいるの?」
「なんでってお前、ここ俺の行きつけのカフェオレだぞ」
 ……そういえば、前コンビニのカフェオレが好きだのなんだの言ってたな。
 そんな割とどうでもいい情報を思い出し、納得する。
「俺は聞こうとしてお前らの話を聞いてたわけじゃない。俺がこの角でカフェオレってたらお前らがここに来たんだ。」
「そんなカフェオレ飲む事をタバコみたいに言われても」
「タバコとカフェオレを同等にするな!」
「タバコを吸う人達に怒られろ」
 
 ノリのいい返答に望月先生は少し楽しそうだが、望月先生と話してると私のツッコミが止まらなくなりそうで、キリがないから早々に離れよう。
「私達、今からご飯買いにいくんで」
「では。」と離れようとすると「あーまてまて」と呼び止められる。
「ふっ。青春祝いに奢ってやろう。佐伯も行くぞ」
 なんかよく分からない祝いだけど、買ってくれるって言ってるから買ってもらおう。
 望月先生の気が変わってしまう前に、さっさと行こう。

「やったー、朔あれにしよう。なんか照り焼きなんとかチキンみたいなの。あれが一番美味しそうだった」
「じゃあ俺もそれで」
「ん?佐藤さん?それおかず系で一番高いやつじゃなかった?一個460円くらいするやつじゃないかな?」
「わーい、お肉ー」
 無視を決め込み、レジへと進む。

「ちょ、さと……遥さーん?!」

 柄にもないこと、するんじゃなかったと後悔する望月先生なのだった。