この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました


 帆奈美はまじまじと宏臣の顔を見た。
 冗談を言っているような表情ではない。からかっている様子もない。いつもの落ち着いた、真面目そのものの顔。つまり本気だ。

 (嘘でしょ……)

 じわじわと実感が押し寄せてきて、心臓が変なリズムで跳ねはじめた。
 怖いとか困るとか、そういう感情のはずなのに、それだけではないなにかが胸の奥でざわつく。
 思い出してしまうのだ。食事の席で穏やかに笑っていた顔や、自分の話を真剣に聞いてくれていた視線。そして、あのとき感じた〝楽しい〟という気持ちを。

 (いやいやいや、だめだって)

 帆奈美は心の中で必死に首を振った。
 相手は東城グループの御曹司。自分とは住む世界が違う人間だ。そもそも帆奈美は身代わりで、その先などない間柄なのだから。

 「あの……」

 ようやく絞り出した声は、自分でも情けないほど弱々しかった。

 「私、推し活に全力の女ですよ?」

 宏臣の言葉を否定する材料として、真っ先に浮かんだのがそれだった。

 「舞台のチケットが取れたら予定全部飛ばしますし、遠征もします。グッズだって山ほど買って、たぶんすごくお金も時間も使います」